我々は触媒的骨格転位の概念をアルキンの分子間二官能基化反応へ展開した。すなわち多置換アルケンは有機分子に広く存在する構造であり、特に機能性分子には欠かせない構造である。特に近年では、テトラアリールエテン構造もしくはトリアリールエテン構造を有する分子が会合誘起発光を示すため盛んに研究されている。多置換アルケンの中でも、アルケン上にアミノ基とスルフェニル基のそれぞれを有するβ―スルフェニルエナミンは物性発現が期待できるが、これまで構築手法が限られていた。そこで我々は、β―スルフェニルエナミンの構築手法としてアルキン挿入反応に着目した。この手法は、挿入される原子群がそのままアルケン上に導入されるため、副生成物が生じず一挙に二つの官能基を導入する直接的かつ原子効率の高い構築手法といえる。これらの背景のもと、本研究ではN-S結合へのアルキン挿入反応の開発に取り組み、πルイス酸性金属触媒を用いたアルキン挿入反応を用いることで、これまで構築手法が限られていたβ―スルフェニルエナミンの新たな構築法を確立した。本反応は、窒素上にアリール基を有するスルフェンアミドにも適用可能であった。また、対アニオンのトシラートがビニル金中間体の窒素上のスルフェニル基を求核的に捕捉する共触媒として働き、求電子的な化学種であるスルフェニルトシラートが生成することが示唆された。これにより、本反応の重要な反応過程であるスルフェニル基の移動を円滑に進行させていることが考えられる。
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