本研究は「金属間協働作用の戦略的利用を可能にする多核遷移金属錯体触媒の精密設計と機能開拓」に取り組み,通常の単核金属では実現困難な「二酸化炭素や水などの普遍小分子を合成素子とする新しい分子変換反応」や「単純飽和炭化水素のsp3C-H結合変換反応」といった高難度分子変換反応を実現することを目指すものである。本年度は,前年度合成に成功したRu-Pd錯体誘導体の二酸化炭素の光還元触媒能の評価と,その他の様々な異種遷移金属二核錯体の合成と構造解析に取り組んだ。 その結果,Ru-Pd二核錯体を触媒として,アミンを犠牲還元剤として用いる系において,二酸化炭素の一酸化炭素への光還元が円滑に進行することを見出した。同じ2電子間原生生物であるギ酸はほとんど生成せず,高い選択性を示した。ルテニウム上の配位子の効果が大きく,特にトリフェニルホスフィンを持つ錯体において触媒活性が高かった。触媒回転数は200を超え,従来の単一錯体触媒を用いる二酸化炭素光還元反応において,最高レベルの触媒活性を示すことを明らかとした。さらにルテニウム以外の酸化還元活性金属との二核錯体化について広く検討した結果,クロムから亜鉛までの第4周期遷移金属とロジウムとの二核錯体合成に成功した。一部の錯体を除き,その殆どにおいてX線結晶構造解析にも成功し,その構造を明らかにした。また,紫外可視吸収スペクトルや電気化学測定を行い,その2つの金属の酸化状態や反応性に関する基礎的知見を得ることができた。
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