酵素の発現する触媒機能は多彩であり、酵素反応は生体が作り得た最高の分子制御テクノロジーの一つである。精密有機合成において、酵素が完璧に制御するようなマルチ選択性を分子触媒レベルで発現するには、従来の画一的な単一分子触媒の常識を打ち破る必要がある。もちろん従来の単一分子触媒でも、反応と基質の種類によっては十分に高い触媒活性と選択性が発現するため、それらは実用的である。しかし、基質適用範囲が広くて使いやすい反面、特定の基質に対しての完璧な選択性や異常な選択性の発現やユニークな触媒機能は元来期待できない。研究代表者は、こうした「レディメイド型」の従来のキラル単一分子触媒と対極かつ相補的な関係にあるのが、キラル超分子触媒であると考えるに至った。本研究では、様々な不斉触媒反応をより戦略的に展開するために、酸・塩基複合化学を基盤とするキラル超分子触媒を開発した。特に、酸・塩基複合化学に基づいて鍵となる小分子パーツを分子設計し、酸・塩基のフレキシブルな親和的相互作用を駆動源としてこれらの小分子パーツからキラル超分子触媒を創出した。酵素の鍵穴と触媒活性点に相当するナノサイズのキラルキャビティーをin situで作り、従来の単一分子触媒には不向きな複数の分子を包接可能な反応場を提供できる。こうした単一分子触媒では成し得ない特異な不斉反応場で反応効率を極め、従来の「合成困難」を「合成可能」にする「テーラーメイド型」のキラル超分子触媒の創製とそれらを用いたマルチ選択的な反応制御を実現した。具体的な項目としては、研究代表者が長年蓄積してきた分子技術を駆使して、(1)ブレンステッド酸・ブレンステッド塩基複合触媒、(2)ブレンステッド酸・ルイス酸複合触媒、(3)ブレンステッド酸・ブレンステッド酸複合触媒、(4)ルイス酸・ルイス酸複合触媒、に区分して研究を効率よく実施した。
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