研究実績の概要 |
我々はすでに、パラ位にトリアゾール部位とアルケン部位を持つベンゼン誘導体を二官能性モノマーとして用い、キラルロジウム(II)触媒によるシクロプロパン化反応により、ベンゼン環とシクロプロパン環を交互にもつ持つ「C3対称性」光学活性シクロファン([3]cycloparaphenylenecyclopropyrene:[3]CPPC)を完全なエナンチオ選択性で不斉合成できることを報告している(ACIE 2017, 56, 3334)。今回、筆者らは、繰り返し単位をもう一つ加えた環化四量体([4]CPPC)の構造や分子の挙動について興味を持ち、環化四量体の不斉合成と解析を行った。まず、環化四量体を選択的に得るため、あらかじめ鎖状の二量体を前駆体として調製した。これによって環化三量体の生成を抑制することができ、目的の環化四量体を収率13%(>99% ee)で得ることができた。単結晶X線構造解析より環化四量体はC2対称性の折れ曲がった構造であることがわかった。さらに、DFT計算により最安定構造が見積もられた。最安定構造では中央の空孔はベンゼン環によって占められている。また、この環化四量体は分子全体が環反転する興味深い挙動をしていることが温度可変NMRから判明した。この環反転は分子全体が平面になる中間体を経由し、それぞれのベンゼン環が協同的に動きながら進行することがDFT計算により示された。
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今後の研究の推進方策 |
トリアゾール環の電荷は、C(5)位水素側に正、N(3)位窒素側に負と、偏っていることが知られています。最近この電荷の偏りを利用して、塩化物イオンなどのアニオンの補足にトリアゾール環が利用されています(O. G. Mancheno JACS 2014, 136, 13999; A. H. Flood. Science 2019, 365, 139)。そこで筆者らは、[3]CPPCの側鎖のアルデヒドをトリアゾール環に変換して、[3]CPPCを不斉触媒として用いる「直接的不斉アルドール反応」を計画しています。有機触媒を用いた不斉反応は、遷移金属触媒を用いず環境調和性に優れているため盛んに研究されています。しかし、アニオン補足型触媒(ルイス酸触媒)としての利用はほとんどなく、本研究は新しいタイプの不斉触媒反応を提案することになります。
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