研究実績の概要 |
有機化合物は医農薬品や有機材料など幅広い分野で利用されており、有機合成化学のさらなる進歩は関連諸分野の発展に大きく寄与する。とくに遷移金属触媒によって選択性を高度に制御した触媒的精密有機合成反応は、効率性において優れた望ましい分子変換プロセスである。なかでも、反応の過程で触媒金属が有機分子上を移動する転位反応や異性化反応は、基質分子の直接活性化・官能基化ができない部位を反応点にすることができ、新たな分子変換・骨格構築を可能にする魅力的な手法であるが、これを利用した合成的に価値の高い触媒反応の例は非常に少ない。そこで本研究では、利用可能な金属の転位反応をこれまでより大きく拡充し、これを含む反応を精密に制御することによって新たな触媒反応経路を開拓し、従来法では困難な位置および形式での新たな選択的結合形成の実現を目指して研究を開始した。2020年度は主として、最近我々が見出した1,5-パラジウム転位を含む新しい反応経路による新規分子変換反応の開発を中心に検討を行った。具体的には、フェニルエチニル基とアリールシリル基をもつアリールトリフラートを用いることにより、パラジウムの1,5-および1,4-転位と炭素-炭素結合の形成を繰り返す新たな反応が進行し、含ケイ素7員環をもつ新規ケイ素架橋π共役化合物が高選択的に得られることを見出した。生成物の選択性は触媒として用いるパラジウム錯体上の配位子の種類によって大きく影響を受けることがわかり、金属錯体触媒による反応経路の制御が可能であることが明らかとなった。また、重水素標識実験等による反応機構解明に関する実験にも取り組み、本反応の詳細についての知見を得ることもできた。
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