研究課題/領域番号 |
20H02742
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
劔 隼人 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (60432514)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | セリウム / ジルコニウム / クラスター / 光励起 / カルボン酸 |
研究実績の概要 |
本研究期間において、セリウム錯体を触媒とするカルボン酸の脱炭酸を伴う酸素酸化反応を中心として検討を行った。脱炭酸反応に高活性を示すセリウムとジルコニウムから成る混合金属クラスターを触媒として、短時間で反応を停止させた際の生成物を詳細に調べたところ、80%以上の選択性でヒドロペルオキシドが生成していることが明らかとなった。以前のセリウムのみから成るクラスターを触媒とした場合には、その低い触媒活性のために触媒反応の進行とヒドロペルオキシドの分解が併発し、酸素化反応の生成物は複数の混合物となる。一方、新たに見出した混合金属クラスターでは、ヒドロペルオキシドの分解よりも基質の消費が早く、高選択性に繋がることを見出した。また、反応合の溶液にトリフェニルホスフィンを加え、ヒドリド還元剤を使用することなく選択的に対応するアルコールへと変換することが可能であり、官能基許容性に優れたカルボン酸からアルコールへの官能基変換を達成した。 光触媒反応に活性を示すセリウムクラスターの酸化還元電位や光学的特性を制御すべく、周囲に様々な安息香酸誘導体を配位子として導入した6核セリウムクラスターの合成と構造解析を実施し、クラスター周囲に配位した溶媒分子の数により、カルボキシラート配位子の配位形式が様々に変化することを明らかにした。また、それぞれのクラスター錯体の紫外可視吸光測定の結果から、光触媒反応の進行に必須である350-400nmの吸収がセリウムを含む場合にのみ見られ、構造として類似のジルコニウム6核クラスターには観測されないことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
効率的な酸素酸化反応の制御として、酸素との反応性が高い有機ラジカルの生成に着目して研究を進めた結果、カルボン酸由来のカルボキシルラジカル、ならびにその脱炭酸による有機ラジカルが青色LED光の照射下、セリウムとジルコニウムから成る異種金属クラスターを用いることで、非常に効率よく進行することを明らかにした。その結果、酸素との反応により初期段階で生じるヒドロペルオキシドの分解を伴うことがなくなり、酸素化生成物を選択的に得るに至っている。また、異種金属化による光触媒の効果を検証する上で、セリウムの添加が非常に重要であり、ジルコニウムのみでは光触媒活性を示さないなど、高い触媒活性を示すための要因を見出しており、今後の研究展開の基盤が十分に得られている。 これらの金属クラスターの性質を制御する上で、周囲の配位子の電子的効果が酸化還元特性や光学特性に与える影響を検証するために、電子的影響の異なるカルボキシラート配位子を順次合成し、それらを配位子とするセリウム6核クラスターの単離同定、および電気化学的測定や紫外可視吸収スペクトルの測定を進めている。それらの結果から、特に紫外可視吸収スペクトルにおいて、青色LED光による反応の進行の要因となる吸収帯が弱いながらも存在することが明らかとなっており、触媒の高性能化の要因を探るための知見が得られ始めていることからも、研究が順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
カルボン酸由来の有機ラジカル形成は、天然資源に豊富に含まれる有機化合物の一つであるカルボン酸の高度利用につながる。そこで、これまでも出る化合物として用いてきたアリール酢酸に加え、より広範囲なカルボン酸を用いる分子変換反応へと展開する。特に、アミノ酸や脂肪酸といった入手容易で安価なカルボン酸を用いる酸素化反応を検討する。さらに、酸素化反応のみにこだわることなく、炭素-窒素結合形成や炭素-炭素結合形成などへの応用可能性を探り、光触媒反応とカルボン酸の利用、をキーワードとして新たな分子変換反応の可能性を検証する。 また、異種金属クラスターが高い触媒活性を示す理由を明らかにするため、その物性測定に加え、計算化学的手法を用いて青色光領域に吸収を持つ要因をHOMO-LUMOギャップ等から検証するとともに、セリウムがエネルギーギャップに与える影響を計算化学を用いて明らかにする。さらに、光吸収波長域がより長い緑色や赤色の光を利用することが可能になる異種金属の組み合わせについて、計算化学により先導的に検討し、その結果を実験的にも検証することで、新たな光触媒の開発と酸素化反応への応用に関して研究を展開する計画である。
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