研究課題/領域番号 |
20H02750
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
内田 さやか 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (10361510)
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研究分担者 |
野田 泰斗 京都大学, 理学研究科, 助教 (00631384)
立川 貴士 神戸大学, 分子フォトサイエンス研究センター, 准教授 (20432437)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | イオン結晶 / 複合材料・物性 / 金属クラスター / ポリオキソメタレート |
研究実績の概要 |
10個程度の銀原子からなる小核銀クラスターは、離散的な電子構造・特殊な原子配列・比表面積の大きさなどから、バルクの銀とは異なるユニークな電気伝導性・磁性・発光特性・触媒活性を示すが、その性質はわずか原子1個のサイズ増減で大きく変化するため、そのサイズを制御した合成法の開発は基礎・応用を問わず重要となる。しかし、一般に小核銀クラスターは極めて不安定で、その合成・安定化にはいまだ課題が残る。従来、小核銀クラスターの合成法としては気相での合成法と液相での保護配位子を用いた合成法が知られていたが、いずれもサイズ選択性と収量がトレードオフとなり両立できないという欠点があった。昨年度、レドックス活性な分子性遷移金属酸化物で多価アニオンであるポリオキソメタレート(POM)と分子性カチオンであるクロム三核錯体多孔性イオン結晶(Porous Ionic Crystals, PICs)の細孔内で、POMからの電子移動を利用して4核の小核銀クラスターが形成されることを報告した。今年度は、PICsを用いた小核銀クラスター合成法をさらに精密な銀クラスター合成法として確立するために、Dawson型POM(POMの種類を変更)からなるレドックス活性なPICの細孔内部で小核銀クラスター合成を行い、種々の特性評価によってPIC中の導入銀量-貯蔵電子数-クラスターサイズの相関を明らかにした。その結果、小核銀クラスターの極大発光波長は、クラスターサイズの増大に伴って長波長シフトし、これは事前に結晶に貯蔵された電子の数に応じて、形成されるクラスターのサイズが増大することを示唆している。これらの試料に対しX線光電子分光及びX線吸収微細構造の測定・解析を行ったところ、上記の貯蔵電子数とクラスターサイズとの関係を支持する結果が得られた。これらのことから、PICs中のPOMの貯蔵電子数を制御することで形成される小核銀クラスターのサイズを3核から6核まで制御できることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定通り、銀クラスター合成の鋳型となるPIC中の導入銀量-貯蔵電子数-クラスターサイズの相関を明らかにでき、現在論文執筆中であり、筆頭著者の学生は日本学術振興会DC1に採択され、成果が順調にあがっている。
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今後の研究の推進方策 |
まずは今年度の成果に関して論文投稿を行い、銀クラスターだけでなく、混合金属クラスターの合成に着手する。金属クラスターの金属元素の一部を異種金属元素に置換すると、クラスターのバンド構造が変調され、発光特性(発光強度)や触媒特性が大幅に変わる(向上する)ことが知られている(佃らACIE 2019, 山元らACIE 2021など)。今年度は、触媒応用を指向し、銀クラスターの一部を銅に置換した合金クラスターの合成とその発光特性を検討する。構成イオン、細孔の径・次元性が異なる種々のレドックス型イオン結晶を鋳型とし、合金クラスターの組成・核数・幾何構造に対する鋳型の影響を整理する。本研究により得られる成果は、無機化学・触媒化学・材料化学分野への貢献が見込まれる。
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