研究課題/領域番号 |
20H02754
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
近藤 美欧 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (20619168)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 錯体化学 / 小分子変換 / 光化学 / 電気化学 / 多電子酸化還元 |
研究実績の概要 |
生体中では、物質輸送・物質変換・エネルギー変換といった生命活動の根幹を成す多彩な反応が非常に効率よく進行する。そしてこれらの反応を人工的に再現可能な材料の開発は、人類社会の発展に資する極めて魅力的な研究分野である。しかしながら、生体中の反応の多くは多数の巨大タンパクからなる複合体を用いて行われており、同様の構造を人為的に構築することは最新の科学技術をもってしても極めて困難である。申請者は、生体系と同等或いはそれを凌駕する人工的な機能複合材料の創出に当たっては、単純な構造模倣体を構築するのではなく、機能発現の鍵となる素機能を精密に抽出した機能性ユニットを人工的に再現し、更に得られた機能性ユニットを再構成することで得られる「機能統合型材料」の開発が重要であると考えた。この着想に基づき本申請研究では、天然の化学エネルギー生産系である光合成反応系の機能を再現可能な機能統合型材料の開発を主たる目的とし、研究を展開する。 これまでに、触媒活性サイトと分子間相互作用サイトを併せ持つ金属錯体、分子性触媒モジュールの自己集積化により非共有結合性相互作用により安定化されたフレームワーク状の構造体が構築できること、ならびに得られた構造体が小分子変換に対する良好な触媒として機能することを報告した。本年度は、CO2還元反応の触媒として機能する鉄ポルフィリン錯体に対し、非共有結合型の分子間相互作用サイトならびに光捕集サイトとして機能しうるピレン置換基を有した分子性触媒モジュール(5,10,15,20-tetrakis(4-(7-tert-butyl)pyren-2-yl)phenyl)porphyrinato iron(III) chloride (FeBPPy, left)を設計した。そして、FeBPPyの自己集積化によるフレームワーク触媒(FC1)の構築ならびにFC1の触媒機能評価を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
FC1の光化学的CO2還元反応に対する触媒能を評価した。プロトン源としてtrifluoroethanol、犠牲試薬として1,3-dimethyl-2phenyl-2,3-dihydro-1H-benzo[d]imidazole (BIH)を添加し、CO2を飽和させたアセトニトリル溶液にFC1を分散させ、紫外-可視光を照射したところ、二酸化炭素の還元体であるCOの生成が確認された。また、120時間にわたり触媒活性が維持されることならびに反応前後で結晶性が保たれていることから、FC1が高耐久性を有する分子性不均一系触媒であることが示された。また、本反応系におけるCOの生成量は1881.6 mol/h・gであり、この値は第一遷移金属のみからなる分子性不均一系光触媒の中で最も大きいものであった。更に、対照実験として5,10,15,20-tetrakis(phenyl)porphyrinato iron(Ⅲ) chloride (FeTPP)を用いた反応を同条件で実施した。その結果、FeTPPを用いた場合にはCO2還元反応は進行しなかった。また、FeTPPと4等量のピレンを加えた反応系でもCOは生成しなかった。これらの結果から、FC1は鉄ポルフィリンとピレン基が規則的に配置されたフレームワーク触媒の構築により、効率よくCO2還元反応を触媒することが示唆された。以上本研究では、光捕集サイトが導入された分子性触媒モジュールの自己集積によるフレームワーク触媒の構築が、良好な光CO2還元触媒の開発にあたって新たな手段となり得ることを見出した。したかって、本研究は当初の計画に照らして順調に進捗していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの研究成果を踏まえ、次年度以降の研究に自立的化学エネルギー生産に向けたフレームワーク触媒の構築を見据えた研究を展開したいと考えている。具体的には、還元触媒ユニットに対し、配位子として光捕集ユニットおよび電子伝達サイトを導入した金属錯体を開発し、分子性触媒モジュールとする。この際、酸化触媒ユニットの導入点として、金属配位サイトも併せて金属錯体中に導入する。次に、得られた分子性触媒モジュールを金属イオンと反応させ、酸化的触媒サイトを構築すると同時に基質認識サイトである細孔を有した結晶性多孔体へと自己集積化させることでフレームワーク触媒を構築する。酸化的触媒サイトとしては、申請者のこれまでの研究によりその有用性が確認されているCoキュバン錯体(Angew. Chem. Int. Ed., 2021, 60, 5965.)を活用する。得られたフレームワーク触媒の構造を単結晶X線構造解析によって明らかにし、基質の捕捉が可能な基質認識サイトが形成されていることを確認する。また、電気化学的インピーダンス測定を実施し、フレームワーク触媒の電子伝達能についても評価する。これらの評価により(1)光捕集サイト、(2)酸化的触媒サイト、(3)還元的触媒サイト、(4)基質捕捉サイト、(5)電子伝達サイトの統合が確認されたフレームワーク触媒に対し、光エネルギーを与え、酸化・還元反応が同時に進行し、犠牲試薬等を消費しない化学エネルギーの生産を達成する。
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