研究実績の概要 |
本研究では、天然の化学エネルギー生産系である光合成反応系の機能を再現可能な機能統合型材料の開発を主たる目的として研究を展開する。申請者らのこれまでの研究により開発された「フレームワーク触媒」(Chem. Commun., 2018, 54, 1174; Dalton Trans., 2015, 44, 15334等)を基盤とした新規触媒材料の開発を行う。フレームワーク触媒とは、触媒活性サイトに対し非共有結合性相互作用サイトを導入した分子(分子性触媒モジュール)の自己集積化により構築される結晶性多孔材料である。本材料は、分子レベルで高い規則性を示すとともにその構造中に触媒活性サイトを自在に導入可能であるという点で既存の多孔性物質にはない特長を有している。本年度の研究では、特に非共有結合性相互作用サイトとして、光増感能とCH-π相互作用能とを併せ持つピレン部位を有したフレームワーク触媒の触媒機能評価を実施した。より具体的には、これまでに電気化学的な触媒能を示すことが判明している(5,10,15,20-tetrakis(4-(7-tert-butyl)pyren-2-yl)phenyl)porphyrinato iron(III) chlorideの自己集積によって得られるフレームワーク触媒を研究対象とした。そして、可視光照射下での実験条件の最適化、ならびに各種対照実験を行った。その結果、第一遷移金属のみからなる分子性不均一系光触媒の中で最も大きな反応速度を有する光二酸化炭素還元触媒の創出に成功した。また、拡散反射紫外-可視スペクトル測定、光電気化学測定、ならびに両氏収率の決定を行い、本フレームワーク触媒の有する良好な活性に光捕集サイトとして導入したピレン部位が大きく寄与していることも明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の概要欄にも記述したが、本年度は特に、光二酸化炭素還元を触媒可能なフレームワーク材料の創出に向けた研究を集中的に実施した。研究対象とした材料は、(5,10,15,20-tetrakis(4-(7-tert-butyl)pyren-2-yl)phenyl)porphyrinato iron(III) chloride (FeBPPy)の自己集積化によって得られる。この材料は、ピレニル基間のhead-to-head CH-π相互作用によって、1次元カラム構造を形成する。その結果、1次元カラム内で活性中心同士が近接した構造をとることができる。更にこれら1次元カラム構造同士がピレニル基間のhead-to-tail CH-π相互作用によって集積することで、疎水性のピレニル基で囲まれた細孔を有するフレームワーク触媒(FC1)となる。前年度までの研究により、FC1が光CO2還元に対し、活性を有すること、またその反応速度が1881.6 μmol/g・hとなることが明らかになっていた。この反応速度は、その時点で関連触媒と比較すると最も高いものであったが、本年度は、この触媒反応の更なる高効率化を目指した研究を行った。各種検討の結果、反応速度が29,100 μ/ g・hと10倍以上向上した。さらに反応の量子収率の決定を行ったところ、既存触媒と比較してトップクラスの値を示すことが判明した。また、量子収率の波長依存性とFC1の光捕集能の評価ならびに光電気化学測定の結果から、ピレン部位の存在が反応の進行に重要な役割を果たしていることが示された。
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