研究課題/領域番号 |
20H02759
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
草本 哲郎 分子科学研究所, 生命・錯体分子科学研究領域, 准教授 (90585192)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ラジカル / スピン / 発光 |
研究実績の概要 |
本年度は以下の(a),(b)を実施した。 (a)磁場応答発光を示すラジカル配位高分子の合成と物性追究:ピリジル基を3つ有する光安定な発光性ラジカルtrisPyMと亜鉛錯体ユニットZn(hfac)2からなる二次元ハニカム格子構造を有する配位高分子、ならびにピリジル基を2つ有する光安定な発光性ラジカルbisPyMとZn(hfac)2からなる一次元鎖構造を有する配位高分子に関して、4.2~20 Kの温度範囲、0~15 Tの磁場範囲における発光スペクトルおよび発光減衰挙動を調査した。その結果、これら2つのラジカル配位高分子が、外部磁場に可逆応答する発光特性(=磁場応答発光、MagLum)を示すことを明らかにした。これらの配位高分子は、MagLumを示す純な(ドープではない)ラジカル分子性結晶の初例である。各種測定結果より、観測されたMagLumは、物質の基底状態における各スピン副準位の占有割合が外部磁場により変化することに起因することが示唆された。一方で、これら配位高分子の構成要素であるtrisPyM単体およびbisPyTM単体の分子性結晶では、MagLumは観測されない。本研究は、「配位高分子化」という手法が、ラジカル間の磁気相互作用を弱めることを通して、MagLum発現のための有力な材料設計指針となり得ることを明らかにした。 (b)発光ラジカルの誘導体の構造ー物性相関の調査:光安定な発光ラジカルPyBTM骨格を基として、フッ素原子置換、芳香族環構造の導入、ならびに金イオンとの錯体形成などの化学修飾手法により、新たな発光性ラジカルおよびラジカル金属錯体を複数創製した。新たに得られた物質は溶液状態において基となるPyBTMよりも高い発光量子収率(最大で69%)を示し、これらの分子設計がラジカルの発光機能向上に寄与し得ることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本提案研究の一つの目的である、発光ラジカル集積体における磁場応答発光(MagLum)を示す新しい物質群としてのラジカル配位高分子を創製することができた。これは、スピンと発光機能が協奏した機能およびそのメカニズムの詳細解明、ならびにこのような機能を示す物質の分子設計の指針の確立に直接つながる重要な成果である。このようなことから本研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下を推進する。 (1) trisPyMと磁性イオンからなる新しい二次元ハニカム開殻配位高分子の創製 trisPyMと亜鉛イオンからなる配位高分子はハニカムスピン格子を形成する。本研究では亜鉛イオンの代わりにスピンを有する磁性イオンを用いてtrisPyMとの配位高分子の合成を試みる。このような物質では、磁性イオンのスピンがカゴメ格子を、そしてtrisPyM上のスピンがハニカム格子をそれぞれ形成することが期待され、亜鉛イオンでは実現できないカゴメーハニカムハイブリッド格子物質の構築が可能となる。 (2)MagLumのメカニズムの詳細解明 現状ではMagLumのメカニズムを提唱するに至っているものの解明には及んでいない。本年度はメカニズムのより詳細な理解を目的として、一分子内に複数の不対電子を有するラジカルオリゴマー(ラジカルダイマー、トリマー、テトラマーなど)を新たに合成する。これらの分子がmagnetoluminescenceを示すかどうかを調査し、magnetoluminescenceの発現に必要な分子構造的知見を得ることを目指す。
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