研究課題/領域番号 |
20H02765
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
前田 耕治 京都工芸繊維大学, 分子化学系, 教授 (00229303)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 液液界面 / 電荷移動共役 / 膜透過 / 電位振動 / 伝播と同期 |
研究実績の概要 |
生命を司る細胞内でのエネルギー変換あるいは神経、心臓、感覚細胞などの電気信号の伝達は、生体膜あるいは細胞間における複数の電荷移動反応の複合現象である。とくに膜反応の場合は、膜内外の電気的中性を維持するために 、個々の電荷移動反応の間の協同、連携、共役が必須である。本研究では、人工膜を用いて、膜を介した電荷移動反応の共役機構を解明し、時間・空間の影響を考慮した共役の原理・原則を確立することを目指す。 第1のテーマは、ミトコンドリアを想定した時間的・空間的に分離したイオン透過と電子透過の共役反応であり、「共役の基本的測定法の確立」と「共役の基本的原理の確立(秒オーダーでの共役)」については、2020年度までにほぼ達成できた。2021年度は、共役初期過程での電気的中性の成立の調査(ミリ秒オーダーでの共役)について、ドメイン間での電気容量成分等の違いから生じる両ドメイン間でのファラデー電流成分の時間差の現れを観測し、電子移動とイオン移動の時間差による電気的中性の破れの可能性を実証した。さらに、2021年度の新たな展開として、高等植物のミトコンドリアでの時間的・空間的分離を想定した共役系の構築のため、イオン透過と電子透過を仲立ちする第3の電荷透過反応を設けたモデル系の構築に成功した。 第2のテーマは電位振動の共役であり、複数の電位振動反応間の伝播速度と伝播経路の精密計測および電位振動系が同期する条件とその機構について明らかにする。これまでに、電気パルスの界面伝播とバルク伝播という2種類の伝播過程を区別する測定法を開発し、同期に及ぼす界面伝播の優位性を推察した。2021年度は、蛍光性界面活性剤のレーザーによる追跡と電気化学の同時測定法を確立し、界面活性剤の界面動画を撮影し、電位変化との関係を実証し、イオン対の界面伝播に基づく振動機構を証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1のテーマについては、2020年度の目標である「共役の基本的測定法の確立」と「共役の基本的原理の確立(秒オーダーでの共役)」がほぼ達成された。同じく2020年度の目標であった「共役初期過程での電気的中性の成立の調査(ミリ秒オーダーでの共役)」については、共役速度の距離依存性を調査して電気的中性の破れの可能性を実証した。2021年度は生体膜に近い共役系として人工脂質二分子膜へ展開する予定であったが、こちらは進捗せず、その前段階として、液膜の薄膜化に着手し、薄膜化による共役速度の増幅という新たな知見を得て、脂質二分子膜への展開に期待を持たせる結果となった。さらに、高等植物のミトコンドリアでの時間的・空間的分離を想定したモデル共役系の構築のため、イオン透過と電子透過を仲立ちする第3の電荷透過反応を設けたモデル系の構築に成功した点も、研究の過程で予期しなかった成果となった。 第2のテーマについては、2021年度の目標であった、蛍光性界面活性剤のレーザーによる追跡と電気化学の同時測定法を確立し、界面活性剤の界面動画を撮影し、電位変化との関係を実証した点で、期待した成果があがった。さらに、次の2点について新たな知見が得られた。一つは、3つの振動系の間で、2つの振動系間伝播では見られない高速伝播が生じるという新奇な伝播様式の端緒を発見した。もう一つは、振動の同期の位相が180度ずれる「反転同期」が起きる新しい現象も見出した。以上、第2のテーマについては、期待以上の成果が得られたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
第1のテーマについては、新たにモデル化した高等植物のミトコンドリアの共役系について、第3の電荷透過反応がイオン透過を制御する場合と電子透過を制御する場合を区別してその役割をより詳細に解析する。また、液膜を生体膜に近づけるため、人工脂質二分子膜系での共役実験を展開する。また、膜酵素を導入したリポソームにおける共役系を作成し、細胞により近い脂質二分子膜での共役条件を探査し、人工膜で得た結果との相関を考察する。 第2のテーマについては、振動間の同期機構が界面での「イオン対」の伝播に起因することが明らかになったが、疎水性界面活性イオンの蛍光標識化とは異なり、振動の本質的イオンである親水性対イオンの方を蛍光化することで、イオン対移動の完全証明を目指す。また、心臓細胞や膵臓細胞でのシグナル同期をモデル化するために、3つ以上の振動系間の同期現象について、2つの振動系間伝播では見られない高速伝播が生じるという新奇な伝播様式の機構を界面動画の観察を通じて解明し、さらに4つ以上の振動系間での伝播様式を解析し、空間的配置と同期との一般則について導き出す。さらに、振動の同期の位相が180度ずれる「反転同期」が起きる新しい現象については、同期の位相のずれをもたらす空間依存性について詳細に検討する。
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