本研究では色素分子が液状で高密度に凝縮された「色素液体」を多種設計・合成してナノ粒子化し、化学センシングデバイス化する。今年度は昨年度に引き続き研究項目①「イオン・酵素応答性色素液体ナノ粒子」の創製と基礎変色特性評価を実施した。イオン応答性色素液体として、新規FRET型応答を示すカリウム・ナトリウムイオン応答性色素液体作製に成功した。これはドナー色素液体にそのクエンチャーとなるアクセプター色素を適量ドープして消光させ、イオン抽出に伴うカチオン性クエンチャー色素放出に基づいてドナー色素液体の蛍光が回復する新規な機構であり、基礎検討として行った薄膜型センサーデバイスではアクセプター色素励起の場合と比較して、約9-17倍程度大きな応答が得られることを明らかにした。また、コントロール実験として行ったFRETを起こさないナノ粒子を用いたイオン応答実験では、長鎖アルキル含有イオン認識分子と比較して、それを持たないイオン認識分子の方がよく応答する現象を初めて見出した。これはイオン認識分子の分子構造によって応答に大きな差が出ることを初めて見出した例と思われる。 研究項目②の高感度量産型1ステップマルチ診断デバイスの開発では、前年度検討したインクジェットプリントデバイスに加え、スティックアレイ状に作製したイオン応答ナノ粒子含有ハイドロゲルとPDMSマイクロ流路を組み合わせたデバイス作製を試みた。ここではアガロースハイドロゲルに、以前カルシウムイオン応答色素液体薄膜として開発した材料をナノ粒子化して含有させ、デバイスとしての性能評価を実施した。その結果、以前に薄膜として評価した際に生じた数10分に及ぶ極端に遅い応答時間が約30秒程度まで大幅に改善されることを明らかにした。今後、これまで開発してきた化学センシング色素液体材料のナノ粒子化・デバイス化によって、大幅な応答時間の改善が期待できる。
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