本研究では、この高いCO2透過性を有する自立性ポリジメチルシロキサン(PDMS)ナノ膜表面に、CO2親和性分子超薄層を導入し、高い透過性と選択性を持つCO2分離膜の創製を目的とする。CO2親和性分子は極性を持つ場合が多く、非極性のPDMS膜表面に薄膜状での均一導入が困難である。このため、一般的には、一般的にはPDMS表面に対して、酸素プラズマやオゾン処理などの親水化処理が行われるが、これら処理はPDMSのガス透過性を著しく低下させ、さらに薄膜状態では欠陥生成に至る場合が多く、ナノ膜での表面処理としては不適である。したがって、ナノ膜表面の改質においては、別の方法論が必要な状況であった。これに対し本研究では、本研究で用いた架橋型PDMS材料中に存在する未反応架橋点を利用し、その未反応点での化学反応を使って、CO2親和性分子の導入を試みた。その結果、ヒドロシリル化反応を用いて、ビニル末端をもつ鎖状化合物の表面導入に成功した。特に、オリゴエチレンオキシド鎖を含む化合物を導入し、CO2選択性の向上を試みた。膜表面での修飾反応条件を最適化し、このような化合物の導入が赤外吸収スペクトル等で確認された。このこの表面は長期間にわたって、安定な表面状態を保持していた。ガス透過性を評価したところ、CO2選択性が未修飾分離膜に比べて数倍以上高くなっていた。特筆すべきことに、CO2透過性は未修飾の分離膜とほぼ同程度な値を示したことである。また興味深いことに、製膜時の膜面とガス分離時のガス導入側に相関があり、非対称なガス透過性についても観測された。これはナノ膜でのガス分離において、表面吸着が分離性能において支配的な要素となることを示す重要かつ新たな知見といえる。
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