研究実績の概要 |
動的共有結合は共有結合でありながら可逆的な解離-付加が実現できるため、あるときは共有結合として振る舞うが、特定の外部刺激(温度、触媒、光、化学種添加など)によってその構造が解離する特徴を有する。本研究課題では、動的特性を有する環状化合物が生み出す特異な「構造再編成」を利用することで、従来の手法では達成することができなかった高分子・超分子の合成法の確立を目的とした。まず、安定ラジカルを発生する動的共有結合(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-イル)ジスルフィド、BiTEMPS)を用いて、構造再編成の条件を最適化し、さらに再結晶やカラムクロマトグラフィーによる精製手法を駆使することで動的共有結合を1つのみ有する環状分子の単離に成功した(単離収率60%程度)。この選択的環化反応によって得られる環状分子の動的特性と末端構造の有無を利用することで、1)動的な高分子の一次構造制御、2)架橋高分子の精密化学修飾、3)超分子化合物の合成を行い、その特性を評価することに成功した。1)高分子の一次構造制では、種々の官能基を有する直鎖状BiTEMPS誘導体の種類や、環状体に対して添加する量を変化させることで、動的共有結合ポリマーの末端官能基化や、得られるポリマーの分子量制御が実現できることを実証した。2)架橋高分子の精密化学修飾では、BiTEMPS骨格を分子内に2つ有する8の字型高分子を合成し、バルク状態で加熱することで、分子間で連結した架橋体へと変化させることに成功し、動的な環状高分子と組み合わせることで、その物性制御も達成した。3)超分子化合物の合成では、動的な環状分子に超分子的な相互作用を導入することで、空間的に連結した環状高分子のみからなる架橋体の合成とその特徴的構造をレオロジーの観点から解析した。
|