研究課題/領域番号 |
20H02785
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
早川 晃鏡 東京工業大学, 物質理工学院, 教授 (60357803)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | ブロック共重合体 / クリック反応 / 体積分率 / 3次元共連続ナノ構造 / ミクロ相分離 |
研究実績の概要 |
本研究は,クリック反応によるブロック共重合体の精密な体積分率制御を軸にした3次元共連続ナノ構造の高信頼性創成技術の開拓を目指し,合成技術の確立と未だ解明されていない基礎的な課題の解決に取り組み,幅広い発展が望めるナノ構造材料に展開するための基盤研究である. 初年度となる令和2年度は,クリック反応による多様な官能基導入の探索と反応条件の最適化に取り組み,コロナ禍による大幅な実験時間の制限があった中,年度目的は達成することができた. 申請者らがこれまでの研究で培ってきたチオール-エン反応やチオール-エポキシ反応を取り上げ,リビングアニオン重合による精密重合で合成したポリスチレン(PS)とポリメチルビニルシロキサン(PMVS)によるブロック共重合体(PS-b-PMVS),およびポリメタクリル酸グリシジル(PGMA)によるブロック共重合体(PS-b-PGMA)に対し官能基導入反応を行った.側鎖の導入量はNMRスペクトルにより解析を行い,±5%以内の高い精度で導入量の制御が可能である条件を整えることに成功した.導入するチオール基を有する分子は炭化水素系化合物から極性基を有する化合物まで多種多様の分子を取り上げて検討を行ったが,後に続く高次構造形態制御に考慮し,本研究ではより明確なミクロ相分離構造が形成されるヒドロキシル基およびトリフルオロメチル基を有するチオール化合物を用いることとした.得られた目的物のポリマーのミクロ相分離構造は,小角X線散乱解析および透過型電子顕微鏡観察により明らかにし,母体ポリマーは同一であるにも関わらず,側鎖官能基の導入量の違いに応じてそれらの構造形態がシリンダーからジャイロイドやラメラ構造に構造転移していることがわかった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度となる令和2年度は,クリック反応による多様な官能基導入の探索と反応条件の最適化に取り組み,年度目的は概ね達成することができた. クリック反応による多様な官能基導入の探索と反応条件の最適化に取り組むために,初年度は申請者らがこれまでの研究で培ってきたチオール-エン反応やチオール-エポキシ反応を取り上げた.さらに,リビングアニオン重合によりポリスチレン(PS)とポリメチルビニルシロキサン(PMVS)によるブロック共重合体(PS-b-PMVS),およびポリメタクリル酸グリシジル(PGMA)によるブロック共重合体(PS-b-PGMA)の母体ポリマーの精密合成に成功したことから,続く官能基導入反応に関する実験が円滑に始めることができた.側鎖官能基の導入量制御は反応時間あるいは仕込み量の最適化を検討することで,理論値と実測値の差が±5%以内,なかには±2%以内程度の高い精度で導入量制御が可能であることを見出した.チオール基を有する分子はチオフェノールやベンジルチオールなどの炭化水素系化合物から3-ヒドロキシプロパンチオールや2,2,2-トリフルオロエチルメルカプタンなどの極性基やフッ素化合物まで多種多様の分子について検討を行った.得られたブロック共重合体のバルクサンプルを調製しミクロ相分離構造について小角X線散乱および透過型電子顕微鏡により調べたところ,ヒドロキシル基およびトリフルオロメチル基を有するブロック共重合体がより明確なミクロ相分離構造を形成することが明らかとなった.母体ポリマーは同一であるにも関わらず,側鎖官能基の導入量の違いに基づき,3次元共連続ナノ構造の一つであるジャイロイド界面を含む構造形態の形成が明らかとなった. コロナ禍による大幅な実験時間の制限があった中,年度目的を達成し次年度の研究計画の実施に繋がる成果を得ることができた.
|
今後の研究の推進方策 |
次年度令和3年度は,前年度に合成したブロック共重合体とバルクにおける構造解析における知見を基に,薄膜におけるナノ構造制御とその解析を進め,特に表面・断面構造解析によるナノ構造形成メカニズムを明らかにすることを目的とする.一方で,前年度に集中して取り組んだブロック共重合体の合成および側鎖導入に関する実験も継続し,新たなポリマーの創出を目指す. バルクにて3次元共連続ナノ構造が形成されるサンプルを取り上げ,シリコンウェハ上に溶液キャスト膜,あるいはスピンキャスト膜を成膜する.膜厚は100-1000 nm程度の範囲で調製する予定である.薄膜における構造解析は走査型電子顕微鏡および高速原子間力顕微鏡を用いる.高速原子間力顕微鏡による構造観察と解析では,加熱ステージを用い,加熱時のミクロ相分離構造形態の形成および構造転移が起こるかどうかについて注意深く検討する.加熱サンプルについては,薄膜を割断しその断面を走査型電子顕微鏡で観察し構造解析を行う.各温度において形成される構造形態に関する構造解析から,3次元共連続ナノ構造の相分離ダイナミクスと構造形成メカニズムに関して追求する.
|