本年度は、2-メトキシエチルビニルエーテル(MOVE)と2-ビニルオキシエチルメタクリレート(VEM)から成るランダム共重合体(MrV)の架橋(c-MrV)膜界面における血小板をプローブとしたバイオイナート特性について検討した。近年、高分子材料が発現する生体不活性に対して、分子鎖のダイナミクスなど界面物性が影響することが実験的に明らかにされつつある。本年は生体不活性を評価するプローブとして血小板を採用し、その粘着特性と、令和2年度および3年度で明らかにしてきた界面における分子鎖凝集状態および分子鎖ダイナミクスとの相関を検討した。まず原子間力顕微鏡および光学反射率測定に基づき膨潤挙動を評価し、令和2年度の中性子反射率測定の結果と矛盾がないことを確認した。フォースカーブ測定に基づき界面の弾性率を評価し架橋密度を算出したところ理論値と矛盾しなかった。これまでの研究から、血小板の粘着特性を理解する上で表面濡れ性や界面近傍の水和状態は重要な指標であることが明らかにされているが、c-MrV界面におけるそれらの特性はVEM含有率に依存しなかった。一方、c-MrV界面に対する血小板粘着はVEM含有率が低いほど抑制され、粘着後の活性化も穏やかであった。前年度までの結果を踏まえるとポリマーブラシ様の界面層が厚く、低密度、低弾性率になるほど最界面の見かけの緩和は減速する一方、ダングリング鎖による大きな排除体積効果が発現され、血小板の粘着および活性化が抑制されたと考えられる。タンパク質吸着や血栓形成など様々な因子が複雑に絡み合った現象を、液体界面における構造・物性の観点から系統的に整理し、材料設計にフィードバックするためには、今後、人工知能やビックデータなどの新たな技術を駆使することも必要となるであろう。これらの課題が克服できれば、界面の知見に基づく機能性材料の設計指針がより明確になると期待する。
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