研究実績の概要 |
昨年度、シンプルなモデル実験における仮説が検証されたため、本年度は、実際のファージディスプレイ法において、磁場配向の影響を評価した。すなわち、約10^9種類のペプチドライブラリの中から、標的物質に対して最も強く結合するオリゴペプチドを選び出す操作を、磁場あり・磁場なしの条件で行い、結果を比較すした。標的物質としては、協力研究者により通常のファージディスプレイ法に関する十分な知見が蓄積されており、Langmuir Blodgett膜(LB膜)にすることで基板に対し平滑な固定が可能であり、なおかつ抗インフルエンザ薬開発に繋がりうる魅力を持つ糖脂質「ガングリオシド」を用いた(T. Matsubara et al. FEBS Lett. 1999, 456, 253.)。その結果、磁場ありの条件と磁場なしの条件と、選別されるペプチドの分布に、顕著な差が観察され、磁場による棒状ファージの配向が親和性選択の結果に大きな影響を与えることが明らかとなった。すなわち、磁場ありの条件と磁場なしの条件にて、3サイクルの親和性選択ならびにウィルスの増幅を行ったところ、5種類のペプチド(P1, P2, P3, P4, およびP5)が選別されたものの、最終的に選別された比率が有為に異なっていた(磁場ありの場合、P1:P2:P3:P4:P5 = 3:11:1:2。磁場なしの場合、P1:P2:P3:P4:P5 = 9:7:1:1:0)。また、P1およびP2を提示する棒状ファージについては、モノクローナルなサンプルを調製し、これらの等量混合物に対し親和性選別を行ったところ、磁場ありの条件ではP2が過剰に、磁場なしの条件ではP1が過剰に選別され、上述の結果がアーティファクトによるものではないことが確認された。
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