昨年度、約10^9種類のファージライブラリの中から、標的物質「ガングリオシド」に対して最も強く結合するオリゴペプチドを選び出す操作を、磁場あり・磁場なしの条件で行い、結果を比較したところ、磁場なしの条件にて最優先で選別されるペプチド(P1)と磁場ありの条件にて最優先で選別されるペプチド(P2)とが異なることが分かった。そこで今年度、このペプチド部分を化学合成し、標的物質のLB膜に対する吸着挙動を水晶振動子マイクロバランス法(QCM法)により調べた。その結果、標的物質との会合定数においては、P1(Kd = 1.6 x 10^-5 M)がP2(Kd = 1.8 x 10^-5 M)よりやや優位な値を示すものの、標的物質への最大吸着量においては、P2(ΔMmax = 145 nm/cm^2)がP2(ΔMmax = 100 nm/cm^2)を1.5倍上回る、という興味深い結果を得た。これは、P1とP2とでは標的物質に対する吸着のメカニズムが異なっており、そのことがライブラリ選択において磁場の有無による両者の吸着順位の逆転につながっていることを示唆する。また、標的物質であるガンリオシドが負電荷を帯びていることを考えると、ペプチド中のカチオン性残基が吸着において重要な役割を担っていると予想される。そこでP1およびP2のアミノ酸配列を詳細に調べたところ、P1は3つのカチオン性残基(リジン2個、ヒスチジン1個)を有し、それらはファージ本体から十分に離れたところに位置するのに対し、P2は1つのカチオン性残基(アルギニン1個)しか有さず、しかもそれはそれらはファージ本体の近傍に位置していた。P2がファージ本体と結合した際、ファージ本体からの立体障害の影響を受け、ファージ本体が標的物質表面に対し垂直配向したときのみP2本来の結合能力が発揮されると仮定すると、今回の現象を説明することができる。
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