研究課題/領域番号 |
20H02794
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加藤 和明 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 講師 (80570069)
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研究分担者 |
星野 大樹 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学研究センター, 専任研究員 (20569173)
小椎尾 謙 九州大学, 先導物質化学研究所, 准教授 (20346935)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ポリロタキサンガラス / シクロデキストリン / X線回折 / 分子配向 / 分子設計 / 環状分子プローブ / 粘弾性緩和 / ダイナミクス |
研究実績の概要 |
ポリロタキサンガラスに見られるX線回折の起源を解明するために、材料の大部分を占める環状成分のシクロデキストリン誘導体の溶融状態および希薄溶液状態でのX線回折を、シクロデキストリンの置換基や溶媒を系統的に変化させた結果を系統的に解析した。その結果、5 nm^-1付近のハローが分子間の距離相関に由来することを示すとともに、15 nm^-1付近の広角側のハローの位置は置換基の構造にはほとんど依存せず、希薄溶液状態でも観測されることを初めて明らかにした。この結果は広角側のハローが分子間の距離相関ではないことを明確に示し、その相関距離から環状分子を構成する6つのグルコースを繋ぐグリコシド酸素原子に由来するという仮説に至った。この仮説をポリロタキサンガラスのX線回折が延伸に伴って異方性を示すことにより証明し、X線回折強度の異方性の解析からシクロデキストリンの配向が求められることを初めて示した。この成果は、硬い環状分子をプローブとして用いる新たな分析手法の基礎となる重要なものである。 また、シクロデキストリンの環のサイズが異なる誘導体を用いて、ポリロタキサンガラスのダイナミクスについて比較を行い、環サイズが大きいほどガラス転移に由来する粘弾性緩和が速いことを明らかにした。ポリロタキサンのガラス転移では、環状成分間の相互作用が弱まっても、軸高分子による幾何学的な拘束が強く残っている場合には二段階の粘弾性緩和が観測されることが、以前の我々の研究で明らかになっているが、環サイズが大きくなるとこの幾何学的な拘束が弱まり、結果としてガラス転移が速くなったと考えられる。この成果は、分子間相互作用だけでなく、分子間の幾何学的な拘束によってガラス転移を制御できる具体的で直感的な手法を示したもので、超分子化学の分野で培われてきた分子設計が、材料の物性制御にも有効であることを示す数少ない研究例となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は放射光施設SPring-8にて接着界面の構造解析を行う予定であったが、コロナ渦の影響で中止となったが、次年度に行う予定であった気体分離膜に関する研究を前倒しで行ったため、研究期間全体の影響はほとんどない。
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今後の研究の推進方策 |
分子論的起源が明確になったシクロデキストリン特有のX線回折を用いて、接着界面におけるポリロタキサンガラスの構造解析を行う。本年度中止となったSPring-8での実験を次年度開始早々に再開し、金属基板との界面近傍におけるポリロタキサンガラスの構造解析の第一回目を行い、構造解析に最適な実験装置の再設計を行う。再設計した装置を用いて年度内にもう一度測定を行い、変形下での埋もれた界面におけるポリロタキサンガラスの構造解析手法を確立する。その際には、接着力が異なるポリロタキサンガラスの構造解析の結果を比較することで、接着力の違いがどのような分子構造やダイナミクスに関係があるかを考察する。こうして新たな構造解析手法を確立することで、その後、ポリロタキサンガラスに限らず様々な高分子材料でも同様の解析が可能であることを実証するとともに、接着の分子論的起源をより明確にする。 また、気体分離膜としてのポリロタキサンガラスの性能評価とともに構造解析を行う。具体的には、様々な化学修飾を施したポリロタキサンガラスの薄膜化を実現し、様々な単一ガスに対する気体透過性を評価する。そして、バルジ試験により構造解析を行うために、まずは窒素ガスを用いた実験系を確立し、薄膜の力学測定を可能にする。こうして確立した薄膜化技術とバルジ試験を用いて、変形下での構造解析を行い、さらに透過性の異なるガスによる変形様式の違いを解析することで、気体透過性を支配している構造やダイナミクスを明らかにする。
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