研究課題/領域番号 |
20H02794
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加藤 和明 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 講師 (80570069)
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研究分担者 |
小椎尾 謙 九州大学, 先導物質化学研究所, 准教授 (20346935)
星野 大樹 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学研究センター, 専任研究員 (20569173)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ポリロタキサンガラス / シクロデキストリン / ホスト-ゲスト相互作用 / 気体分離膜 / 副分散 / バルジ試験 / 薄膜化 / 包接率 |
研究実績の概要 |
ポリロタキサンガラスを気体分離膜として用いるために、適切なアシル置換基を環状成分に導入したポリロタキサンの溶媒キャストによって、厚み10μm程度の薄膜化に成功した。そこで、環状成分と軸高分子の比(包接率)が異なる種々のアシル化ポリロタキサンを合成し、気体分離性能と薄膜の力学物性を評価した。包接率が下がり軸高分子の割合が大きくなるにつれて、窒素に対するCO2の透過性が上昇し、30倍程度の高い選択性を示すことが明らかになった。一方、力学物性はバルジ試験により評価し、ヤング率は減少してより大変形が可能になったが、包接率の高い膜であっても降伏を示す延性材料であった。さらに、膜厚850 nmでも自立して降伏を示す膜が得られた。また高い気体分離能はCO2の膜内への高い溶解性に由来することも明らかとなり、他の高分子分離膜にはない軸高分子の高い運動性による効果が表れている可能性も示唆された。 また、ポリロタキサンガラスに特有の軸高分子の運動性を制御するために、ポリブタジエンを主鎖骨格とするポリロタキサンガラスの合成にも初めて成功した。この軸高分子を臭素化し、その前後のポリロタキサンガラスの物性を比較したところ、副分散に顕著な違いが見られた。臭素化前は、環と軸が相分離した状態での軸分子がミクロブラウン運動していることが示された。一方、臭素化後には既存のポリロタキサンガラスと同様の副分散が見られたが緩和強度は非常に弱かった。NMRからはシクロデキストリンの環の内側のプロトンと軸高分子の臭素原子との強い相互作用が示唆された。この環と軸との相互作用により、相分離は阻害されたが、同時に軸高分子の運動性も阻害されたと考えられる。この成果は、環内部での軸高分子との相互作用により副分散とそれに伴う力学物性をも制御できることを示すものであり、この材料に特有の分子設計指針の一つが実験的に示されたと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度中止になったSPring-8での構造解析を、本年度は2回行うことができ、まだ解析と解釈は不十分ではあるが接着界面の構造解析については予定通り行うことができている。また気体分離性能とバルジ試験による力学測定については論文発表もできていることに加え、バルジ試験下での同時測定の準備も着々と進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
気体分離膜に関する研究の次のステップは、バルジ試験下での構造解析であるが、まずは実験室レベルで可能な偏光高速度カメラを用いた同時測定を年度明け早々に行い、膜の変形下での配向分布を得るとともに、同時測定のための実験装置の改良などを行う。そして年度内に放射光施設でのX線散乱の同時測定を行うことでより詳細な構造解析を行う。これらの構造解析を様々な気体分離性能や力学強度を示す一連のポリロタキサンガラス薄膜で行うことで、気体透過メカニズムを明らかにするとともに、高い気体透過性と力学物性を両立するポリロタキサンガラスの分子設計指針を構築する。 また、昨年度測定を行った接着界面の構造解析の結果の解析を継続して、微小領域でのひずみと配向の深さ依存性を明らかにする。同時に、接着力の異なる誘導体間の比較を行うことで、分子配向やひずみ分布の違いと接着力との関係をまとめ考察する。さらに、金属基板との接着界面近傍でのポリロタキサンガラスのダイナミクスを明らかにするために、スピンコート膜を使ってその厚みの温度依存性からガラス転移ダイナミクスを評価し、既存の高分子材料との比較を行う。
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