研究課題/領域番号 |
20H02795
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
増田 造 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (70814010)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 高分子ソフト界面 / 表面電位 / 精密ラジカル重合 / 生体材料 |
研究実績の概要 |
表面電位は界面機能を支配する重要な因子のひとつである。その指標としてゼータ電位が一般的に用いられるが、溶媒・イオンが浸透するソフト界面では厳密にはゼータ電位が定義できない。本研究課題は、高分子の精密重合を利用して系統的に構造制御したモデル界面を調製し、界面導電現象の解析と実際の表面構造の対応に基づき高分子ソフト界面の表面電位の正確な理解を目指すものである。さらに、得られた学問的基盤に基づくバイオ応用として、抗菌性表面の設計指針を得ることを目指している。 本年度は、高分子の合成と評価を中心に進めた。モデル界面として、片末端を基板固定して高密度に高分子鎖を表面修飾したポリマーブラシ構造の調製を行った。高分子の精密ラジカル重合法としては表面開始型原子移動ラジカル重合(SI-ATRP)法を用いた。ポリマー種としては、カチオン性の2-(methacryloyloxy)ethyl)trimethylammonium chloride (MTAC)のホモポリマーや双性イオン性側鎖を持ち電気的に中性な2-methacryloyloxyehyl phosphorylcholine (MPC)のホモポリマー、またMTACとMPCの共重合体について合成することができた。得られたポリマーは核磁気共鳴(NMR)を用いて構造解析を行った。また、表面の構造・物性はX線光電子分光(XPS)による元素分析や分光エリプソメトリによる膜厚測定、接触角測定から評価した。 さらに、イオン濃度を変えながら電気泳動移動度を測定した。理論式であるOhshimaの式に従う振る舞いを示しており、得られたパラメータに関する考察を進めたい。ポリマーブラシ構造と比較する物質として高分子網目が溶媒で膨潤した物質であるハイドロゲルについても構造を制御しつつ合成することができた。一連の成果は、学会発表を中心に発信に努めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、高分子の精密重合法を利用して構造制御したモデル界面を調製し、その界面における界面導電現象の解析から高分子ソフト界面の表面電位の正確な理解を目指すものである。 初年度である本年度は、高分子の合成と評価を進めており、高分子ソフト界面を構造制御しつつ調製することに成功している。具体的には、高分子の精密ラジカル重合法のひとつである原子移動ラジカル重合(ATRP)法を用いて、正電荷に帯電した良溶媒中で高分子が伸長した形態をとるポリマーブラシ表面を、膜厚を制御しながら調製することができた。修飾密度については次年度に系統的な検討を予定しているが、上述した合成と評価の実験系に基づいて進めることができると考えられる。また、ポリマーブラシ構造と比較する物質として高分子網目が溶媒で膨潤した物質であるハイドロゲルについても、精密ラジカル重合も用いつつ合成に成功した。 電気泳動移動度の測定もイオン濃度を変えつつ実施することができ、理論式に基づく解析も行った。界面構造と解析から得られたパラメータの比較を進めることで、ソフト界面の表面電位の正確な理解につなげたい。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、高分子ソフト界面の構造として、修飾密度に関しても系統的な制御を進める。また、ポリマーブラシに加えて高分子網目が溶媒で膨潤した物質であるハイドロゲルについても比較を進めることでポリマーブラシの特徴を明らかにしたい。一連の材料系における電気泳動移動度のイオン濃度依存性の測定を進め、理論式に基づく解析と構造との比較を進める。
|