本研究では、赤外分光法および低波数ラマン分光法を用いて、結晶性ポリマーブレンドの相分離と結晶化過程における、モルフォロジーと分子間相互作用の可視化を行うことを目的としている。特に、ラマンスペクトルを低波数領域から高波数領域まで測定することで、ラメラ構造中の分子間相互作用と結晶化度などの情報を同時に得ることができる。ポリマーブレンドの相分離と結晶化が同時に起こるような系では、分子間相互作用の可視化はポリマーブレンドの新たな分析手法として期待できる。 本研究ではポリヒドロキシブタン酸(PHB)とポリ乳酸(PLLA)のポリマーブレンドで、PHBの分子量を低分子量化することで相溶性ポリマーブレンドを作成し、温度ジャンプにより相分離と結晶化を誘起させ、その様子をラマンマッピング測定により観察した。その結果、相分離の進行過程で分子間相互作用の変化が観測され、引き続いて結晶化の進行が確認できた。低波数領域のラマンスペクトルは高分子の分子間相互作用の変化に非常に敏感であるため、一般的な高波数領域のスペクトル変化から得られる官能基の振動モードの変化からは見えないような、相分離に伴うポリマー間の相互作用の変化を捉えることに成功した。ラマンマッピング測定により、このようなポリマーブレンドの相分離と結晶化挙動を捉えた例はこれまでになく、本研究によって高分子化合物の低波数領域のラマンマッピングの有用性を示すことができた。
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