本研究課題の新モノマーの設計指針は、(i)汎用樹脂の化学構造、(ii) 高性能化構造、(iii) ブレンド剤と適合する化学構造、(iv)スイッチ機能の付与、から構成され、これらを組み合わせて、汎用樹脂の力学的特性と熱的特性を保ちながら海洋生分解性を有する、新材料を創出する手法を開拓することであった。これまでに(i)~(iii)について、様々な新規高分子創製とブレンド化を実施し、構造と物性との相関を明らかとしてきた。 最終年度においては「(iv)スイッチ機能の付与」に加え、高分子間相互作用を効果的に付与するために、炭化水素系だけでは弱い相互作用を克服するため、複素環構造を新しく導入し、その効果を調べた。エステルフリー型ポリトリメチレンカーボネート(PTMC)を骨格とする新規モノマーとなる化合物として、ピペロニルアルコールを用いて合成した。この新規モノマーの重合挙動は、重合の成長末端において重合触媒との相互作用のため、重合条件が影響することを見出した。また、スイッチ機能として、アミン化合物を認識する置換基を高分子鎖中に導入することを試みた。PTMC側鎖にまずアリル基を導入し、チオール-エン反応によりカルボニル基を導入した新しい高分子材料を創った。さらに、光に応答して反応する置換基としてシナミル基を導入した新しい高分子材料を合成した。一方、セルロースナノファイバーおよびキトサンとのブレンドの耐熱性や力学強度を評価した。 研究期間全体の成果として、エステルフリー型にこだわった新しいトリメチレンカーボネート(TMC)誘導体約30種類を合成し、新しい分解性高分子のモノマーとして提供可能となった。置換基の構造によって、耐熱性や力学強度が変化することを明らかとした。天然高分子である多糖誘導体とブレンドするときに、その共重合体の構造や組成比によって力学強度を制御可能であることを示した。
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