研究課題/領域番号 |
20H02802
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
川口 大輔 九州大学, 工学研究院, 准教授 (70362267)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 分子鎖ダイナミクス / 凝集状態 / 電荷生成 |
研究実績の概要 |
エレクトロニクスデバイスにおいて高分子は薄膜状態で使用されるため、薄膜中の分子鎖凝集状態が機能発現に及ぼす影響を理解することは重要である。代表的な高分子半導体であるポリ(3-ヘキシルチオフェン) (P3HT)は剛直な主鎖と柔軟な側鎖を有する半結晶性の高分子であり、主鎖が規則的に配列したラメラ晶を形成する。その凝集構造は結晶化動力学に依存するため、分子量の影響を受ける。一方、P3HTに光照射すると、配列した分子鎖間に電荷が生成する。したがって、P3HTにおける電荷生成は凝集構造および配列した分子鎖の熱運動特性を通じて分子量の影響を強く受けると予想される。今年度は、種々の分子量を有する単分散P3HT薄膜を用い、電荷生成に及ぼす凝集状態と分子運動特性について検討した。 試料として立体規則性を有するP3HTを用い、分取ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて、分子量の異なる単分散試料に分画した。そのクロロホルム溶液からスピンキャスト法に基づき、厚さ200 nm程度の膜を様々な基板上に作製した。P3HT薄膜の凝集構造は微小角入射広角X線回折(GIWAXD)測定に基づき評価した。得られたGIWAXDプロファイルからパラクリスタル解析に基づき、Mnの減少に伴い結晶の規則性が向上することを明らかにした。 光電荷生成過程はフェムト秒過渡吸収分光測定に基づき評価した。その結果、結晶の凝集状態が自由電荷であるポーラロン(P)の生成過程に影響し、結晶の規則性が高い場合、励起光のエネルギーが低くても、Pが直接生成することを明らかにした。また、ポーラロン対からPが生成することを確認し、この過程とチオフェン環のねじれ運動(α1過程)がカップルしていることを見出した。結晶の規則性とα1過程の見かけの活性化エネルギーの関係から、α1過程は結晶中におけるチオフェン環のねじれ運動に対応することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までの進捗で、高分子半導体の電荷生成に及ぼす分子鎖凝集状態と熱運動性の影響に関する理解が進んだ。これは、機能発現のための分子設計、デバイスの使用温度を考慮した材料設計に有用な知見である。以上のことから、本年度の進捗状況はおおむね順調であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、これまでに得られた機能性高分子のバルクおよび界面における局所的な凝集状態および熱運動性、ならびに、電荷生成および電荷移動に関する基礎的な知見を統合する。また、これまでの知見を補足するため、試料として種々の側鎖長を有するポリ(3-アルキルチオフェン)(P3AT)を用いて、電荷生成に及ぼす分子鎖凝集状態および熱運動性、さらには界面効果の影響について検討する。
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