研究実績の概要 |
エレクトロニクスデバイスにおいて、高分子は金属および半導体などの異種固体材料と界面を形成する。高分子材料の様々な特性は界面の影響を与えるため、異種固体と高分子の相互作用を理解することは重要である。今年度は、エポキシ硬化物と銅の界面における電子状態について検討した。 主剤および硬化剤として、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(DGEBA)および4,4’-ジアミノジフェニルメタン(DDM)を用いた。被着体として銅を用い、支持基板として石英を用いた。接着剤/被着体界面を多く有する試料として、エポキシ硬化物/Cu積層膜を用いた。膜は、373 Kで20分プレ硬化させたDGEBA/DDMのテトラヒドロフラン溶液を調製し、スピンコート、373 Kで3 時間のポスト硬化、および、1 nm厚の銅の真空蒸着、を9回繰り返し、石英基板で挟むことで調製した。参照試料として、同じ熱処理条件で硬化させ、石英基板で挟んだエポキシ硬化物膜を調製した。試料の厚さはいずれも210 nmであった。各試料の励起状態は過渡吸収分光(TAS)測定に基づき評価した。 DGEBA、DDMのニート試料、エポキシ硬化物膜およびエポキシ硬化物/Cu積層膜において、二分子性の励起種(エキシマーおよびエキシプレックス)が観測された。DGEBA/DDMの電子状態は、Cuと接触しなければ硬化前後でほとんど変化しなかった。一方、エポキシ硬化物/Cu多層膜では、バルクのエポキシ硬化物とは異なる電子状態を持つ励起種が形成されることを見出した。励起種の形成速度は、Cuと相互作用した場合の方が相互作用していない場合と比較して速かった。これらの結果は、Cuとの相互作用により誘起されるDDM上の正電荷の観点から説明できる。したがって、エポキシ接着剤が金属被着体と接触すると、接着剤の電子状態が変化すると結論できる。
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