研究課題/領域番号 |
20H02804
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
上木 岳士 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主任研究員 (00557415)
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研究分担者 |
中西 淳 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, グループリーダー (60360608)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | イオン液体 / 高分子ゲル / ブロック共重合体 / ヒト間葉系幹細胞 / メカノバイオロジー / 超高分子量 / 応力緩和 / 弾性率 |
研究実績の概要 |
細胞が周囲の力学刺激をどのように感知し、その制御機構がどのように働くか解明しようとする学問領域を「メカノバイオロジー」と呼ぶ。本研究では材料の力学/化学的性質を独立に制御可能な高分子ゲルからなる細胞足場材料を創出する。特に従来は見逃されがちであった高分子ゲルの溶媒成分のエンジニアリングにより、材料の損失弾性率、応力緩和等の動的成分まで含めた力学物性と化学的特性の合理設計を目指す。初年度ではn-ブチルメタクリル酸(n-BuMA)のエチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)存在下におけるin-situラジカル重合による無毒性疎水性イオンゲルの合成条件を決定した。得られたゲルサンプルのうち、高弾性率(40kPa~)のものに関してはフィブロネクチンあるいはコラーゲンtypeⅠの表面修飾方法を確立し、細胞培養実験に着手した。ゲル化条件を探索する中、予想外の発見としてEGDMA無添加条件においても、極低濃度開始剤条件でマトリックス高分子の超高分子量化が起きることで柔軟で透明なゲル薄膜が得られることを見出した。なおかつこのイオンゲルは幅広いタイムスケール(数秒~数時間)で応力緩和時間の自在制御が可能であることを突き止めた。(特許2件出願済み)同様の方法論は当グループが見出した無毒性疎水性イオン液体系にも展開可能であるため、来年度は通常の手法で得られるelasticイオンゲルに加え、新規手法で調製されるviscoelasticイオンゲルの細胞培養系への適用を進め、イオンゲルの動的力学成分が細胞応答に及ぼすメカニズムに注目した検討を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定としていた高分子ゲル調製条件のスクリーニングはおおむね順調に進んだが、年度の前半はコロナの影響で実験業務において時間的制限がかかってしまった。このためタンパク質表面修飾において、高架橋密度サンプルに対してはおおよそ技術確立したが、低架橋密度サンプルは未了であり、この点は予定より若干遅れている。一方、予想外の発見として、イオンゲルの調製条件の最適化を行う中で、EGDMAのような二官能性架橋剤を添加しなくとも極低開始剤濃度条件で重合すると、モノマー転換率100%にて超高分子量ポリマー(Mw=200万~)が形成されることを見出した。このゲルは自己支持性を持つ透明フィルムで500%以上の高い引っ張り強度、自己修復性、再成型性などイオン導電材料としても興味深い。さらに本手法で得られたイオンゲルは幅広いタイムスケール(数秒~数時間)で応力緩和時間が制御できることもつきとめており、動的力学成分の自在設計が可能なメカノバイオロジカル材料としても有用である。このように一部計画に遅れはあるものの、当初予定には無かった思いもよらぬ研究の萌芽にも接しており、総じて研究は順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定にあった、in-situラジカル重合によって合成される無毒性イオンゲル(elastic gel)に関しては引き続きタンパク質表面修飾条件の最適化を行う。併行して、高弾性率サンプルに関してはヒト間葉系幹細胞(hMSCs)の細胞培養および分化誘導実験に着手する。一方、本年度見出したイオン液体中における極低濃度開始剤条件における超高分子量化現象は応力緩和時間の自在制御可能なイオンゲル(viscoelastic gel)の設計において非常に重要な基盤技術になり得る。このため、イミダゾリウム系イオン液体に限定していた検討を、無毒性の疎水性イオン液体系にも展開していく。こちらでもタンパク質の表面修飾方法の検討、最適化を行い順次細胞培養実験に適用する。
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