研究課題/領域番号 |
20H02805
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
穂積 篤 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 研究グループ長 (40357950)
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研究分担者 |
浦田 千尋 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (40612180)
佐藤 知哉 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 研究員 (40783874)
宮前 孝行 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (80358134)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ポリマーブラシ / ゾルーゲル法 / ペイントオン法 / ぬれ性 / 静的/動的接触角 / 撥水性 |
研究実績の概要 |
本年度は、ゾル-ゲル法を用いてポリマーブラシ合成の起点となる層(重合開始層)の重合開始性官能基(重合開始基)の固定化(グラフト)密度制御を実施し、低密度から高密度のポリマーブラシの合成とその撥水性の関係について調査した。具体的には、重合開始基を有するシランカップリング剤と有さないシランカップリング剤の二種類を任意のモル比(1:0~1000000)で混合し、テトラエトキシシランと塩酸を含むエタノール溶液中で加水分解・縮重合させた溶液をシリコン基板上に塗布し乾燥させることで重合開始基密度の異なる重合開始層を得た。それぞれの重合開始層の表面組成をエックス線光電子分光法により分析し、重合開始基が所望の密度で基材表面に導入されていることを確認した。次に、それぞれの重合開始層を起点にした表面開始原子移動ラジカル重合により各種ポリマーを成長させることにより、グラフト密度の異なる疎水性ポリマーブラシの合成に成功した。さらに、得られたポリマーブラシ表面を接触角測定により評価することで、グラフト密度の違いがぬれ性に与える影響を詳細に調査した。その結果、ポリマーブラシはグラフト密度が高い場合と低い場合で異なる静的/動的撥水性を示すことが明らかになった。例えば、ポリアクリル酸メチルブラシでは、グラフト密度を低くすることで接触角ヒステリシスが最大で約20度変わることが確認できた。このことから、グラフト密度制御によりポリマーブラシのぬれ性制御が可能であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来、重合開始膜(例えば、ハロゲン元素を含む有機シラン単分子膜)の形成には液相法や気相法が用いられてきた。しかしながらこれらの手法は、有機溶剤、長時間の加熱処理、湿度制御などが必要、かつバッチ処理のため、処理可能な基材面積は反応容器サイズの制限を受けるといった問題があった。また、これらの手法では、本研究で実施する“重合開始基密度”を任意に制御することが困難であった。本年度は、固定溶液組成による有機成分濃度の制御が容易というゾル-ゲル法の利点を生かし、重合開始基密度の異なる重合開始膜を試作した。特に、ATRP反応性を有するハロゲン元素を含む有機シラン、ハロゲン元素を含まない有機シランとテトラアルコキシシランを用い、それらの混合比を任意に調整することで表面の重合開始剤密度を自由に変化させることを可能にする最適なゾル液の開発を目指した。また、各種基板への成膜性、密着性についても調べ、最適な組成を決定し、モデルとなるモノマーを利用し、作製した重合開始基密度の異なる重合開始膜を用いて、大気開放系でポリマーブラシが合成可能なPaint-on(ハケ塗り)法を駆使して各種重合条件下でポリマーブラシを合成し、その表面のぬれ性を調べた。 上記の通り、重合開始層の重合開始基密度の制御に成功し、グラフト密度の異なる疎水性ポリマーブラシ(ポリアクリル酸メチルブラシ)の精密合成とその静的/動的撥水性の評価を実施し、グラフト密度とぬれ性に相関があることを見出している。以上より、本研究課題は概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、前年度までに得られた知見を踏まえ、ポリマーブラシのグラフト密度とポリマーの運動性とのより詳細な関係について調査する。具体的には、室温でより駆動しやすいポリマーを用い、グラフト密度の異なるポリマーブラシを合成し、表面組成やぬれ性を分析し、他の表面と比較することで、ポリマーの運動性が液体の滑落性に寄与するか否かを明確にする。また、水以外の各種液体や室温以外の温度条件における接触角測定を実施することで、ポリマーブラシ上での液体の滑落性を向上させるための材料設計指針を明らかにする。
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