研究実績の概要 |
超原子分子軌道(SAMO)とは、低次のRydberg軌道として理解される、有機分子の周辺に広く広がった、対象性の良い電子軌道である。これを電子電動に利用できれば、有機半導体の移動度向上に大きく貢献できる。しかし、SAMOはそのエネルギーが高く、これを実用化するにはエネルギーの制御手法が求められる。さらに、単分子のSAMOではなく、固体(薄膜)状態のSAMOが応用上重要となる。 本研究は、主にフラーレンの薄膜のSAMOに注目し、その精密計測と制御を目的とした。本研究では、特にSAMOが注目されている分子であるLi内包フラーレン(Li@C60, Li@C70)に着目した。本研究では、これらの高純度材料を研究分担者の上野が合成し、それをもちいた高純度な単分子層を作製することに成功した。この独自の高純度Li@C60, Li@C70を用いて、分子レベルでのSAMOの計測と評価が可能となった。特に今年度はLi@C70の薄膜の評価に取り組み、Li@C60とは異なる特徴をみいだしてきた。フラーレンの内部空間中のLiの位置によるSAMOエネルギーが変化する可能性を実験的に示し、現在理論計算でそれを確認し、その結果を現在論文を準備している。これらの結果に基づき、SAMO研究のさらなる発展的な課題として、「SAMO工学の開拓」が挑戦的研究(開拓)に採択された。 一方、本研究では、新規なSAMo計測の手法の開拓を進めてきており、電解電子放射顕微鏡(FEM)を用いた単分子のSAMOイメージングが可能であることが明らかにしてきた。これにより、単分子のSAMOを実時間、実空間で観察することが可能となってきた。これに関する原著論文が現在投稿中である。
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