研究課題/領域番号 |
20H02809
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
岸川 圭希 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (40241939)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 液晶 / 強誘電性 / 柱状液晶相 / 電場応答 / 分極維持 / スイッチング / 記録素子 |
研究実績の概要 |
強誘電性柱状液晶相の研究について以下のような進展があった。 【1】キラルなN,N'-ビス(3,4,5-トリアルコキシフェニル)ウレア化合物の強誘電性発現のメカニズムの解明:上記キラルウレアの強誘電性発現のメカニズムについて調査し、螺旋の形成が重要であることを解明した。2次元X線回折により、カラム内の分子間でフェニル基がスタッキングしている構造が確認され、CDスペクトルにより、螺旋形成におけるCDシグナルが観測された。キラルでないアルキル鎖では、螺旋構造は観測されていないため、強く巻かれた螺旋構造により、カラムの分子間力が増加し、電圧除去後にもカラムの分極が維持するということが推定された。(Adv.Electron.Mater.2020)【2】ジフェニルウレア誘導体の低温化:分岐鎖アルキル基を上記分子に導入したところ、液晶温度帯を低温化できた。さらに、分子の熱運動の抑制により、分極保持する強誘電性温度域も上記化合物の100~145℃付近から60~100℃に大幅に低温化した。(Chem. Lett. 2020)【3】キラルジフェニルウレアを用いた二重螺旋の形成:分子長が長いジフェニルウレアにおいては、液晶状態で、1次元のウレア分子集合体2つがアンチパラレルに会合し、キラリティ導入による二重螺旋形成が引き起こされることを見出した。(Liq.Cryst. 2020)【4】ジフェニルウレア誘導を用いたピエゾ応答素子の開発:アルキル鎖としてオレイル基を導入し、液晶状態で電圧印加しながら、クリック反応により、分極状態で一体化し、新規ピエゾ応答材料を開発した。これまでの芳香族ウレアよりも高いピエゾ応答性能を示した。(Chem. Lett. 2021)【5】新規アミド系誘導体の合成と評価:キラルなジアミド化合物を合成したところ、一部は分極維持を示した。現在、論文として報告を準備している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績に示した通り、本年度は一年を通して、実験時間は短かったが、効率的に研究が進み、おおむね順調に進展して、研究実績の概要に示した(1)から(5)までの研究成果を得ることができた。特に(1)~(4)は、研究がまとまり、著名な論文誌に4つの論文(Adv.Electron.Mater.2020、Chem. Lett. 2020、Liq.Cryst. 2020、Chem. Lett. 2021)を掲載でき、1年間としては、十分な研究成果であると思われる。 近年報告されている、多くの強誘電性柱状液晶は、高い周波数の三角波電圧印加で、分極緩和の前に逆の電圧をかけることでヒステリシスや反転電流ピークを示しているが、電圧除去後の時間経過における分極維持の確認をしていない。本研究の強誘電性柱状液晶は、電圧印加による分極誘起、正負の切替えによる分極方向のスイッチング、電圧除去による分極維持の時間経過、という厳密な観測を行うことで、強誘電性を確認している。同時に強誘電性柱状液晶相を低温化する方法論も見出しており、大きな進展をしている。 また、柱状液晶相における二重螺旋の形成は極めて珍しく、ウレア分集合体の相補的なアンチパラレル会合を利用したものは、他に例を見ない(注目され学術誌Liquid Crystalの表紙として採用されている)。柱状液晶相で二重螺旋を形成する方法論がなかったので、重要な研究結果であると思われる。 電場応答性液晶を光重合で一体化しピエゾ応答素子を製作したものも世界初の試みであり、今後、新しい方法論として、多くの発展が見込まれる。加熱された極性高分子を高電圧でならべる現在の方法と比べ、本方法は分子配列が高度に揃うので、高性能なピエゾ素子作製法として利用できるものと思われる。 このように、強誘電性柱状液晶相についての基礎から応用にわたる多くの研究成果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、強誘電性柱状液晶がどのような構造の時に発現されるかをウレア化合物をベースとして探索しており、今後の目標として、「室温で駆動し分極を維持する強誘電性柱状液晶相」を開発する。室温で駆動する強誘電性柱状液晶は、これまで報告されておらず、極めて困難な研究であるが、「室温駆動・分極維持」における成功のインパクトは学術的にも産業的にも大きいので、ぜひチャレンジし、成功させたい。アルキル鎖の分岐化が一つのキーポイントになることが分かっているので、分岐アルキル鎖の本数、ボリューム、主鎖・側鎖のバランスなどを詳細に詰めながら、多種類の分子を探索する予定である。 もう一つは、(S)-シトロネリル基が6本導入されている強誘電性液晶ウレア化合物について、フェニル基の3,4,5位のどのアルキル鎖がどの程度強誘電性に影響しているか、について調査する。このことによって、効率的なキラリティ利用による強誘電性の発現について探索する。さらには、これらの置換基効果により、抗電界を制御し、できるだけ小さな電圧でスイッチングできる化合物の構造を探索する。また、一部の位置に直鎖アルキル基を置換するなどで、低温化についても検討して、室温でも応答し分極維持する液晶化合物の実現も同時に目指したい。 また、室温駆動の強誘電性柱状液晶が見いだされた際には、金属上に薄膜を形成し、針状の電極などで電圧応答させて、その分極が長時間残ることを第二次高調波発生などで確認する。さらに、誘起した分極域にイオンや分子などが選択的に配置できることを確認する。上向きの分極域と下向きの分極域を同時に形成させて、異なるイオンや分子が並べられるか否かを探る。可能であれば、複数の異なる蛍光分子を並べて、複数の情報を記録したり、重合性分子を並べて光重合して一体化し、新しいポリマー分子の作製法を探りたい。
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