研究実績の概要 |
実用的な有機分子エレクトロニクスで広く活用されているアモルファス薄膜においては,実は分子配向はランダムではなく,単に真空蒸着するだけで極性分子が自発的に配向分極し,それにより界面に発生する分極電荷がキャリアの挙動や素子特性を大きく左右することがわかってきた。しかし,その発生機構は長年の謎となっている。本研究では,測定誤差につながる環境光の影響を完全に排除して,自発的配向分極量を多くの材料に対して精度良くかつ自動的に測定できる“回転型ケルビンプローブ(KP)装置”を開発し,実測データ量を桁で増やし,機械学習を用いた分極を誘起する要因の特定,量子化学計算に基づく分子間相互作用の理論的解析,分子動力学シミュレーションによる配向解析,デバイスシミュレータを用いたデバイス中での分極電荷の効能評価などの多角的なアプローチにより,自発的分極現象の起源を解明するとともに,分極の大きさと極性を制御する分子設計と蒸着プロセスを開発する。さらに,回転型KP装置の特性を活かし,パルス蒸着ビームを用いた新たな分子配向制御法の探索も行う。これらの制御技術を実際の素子に適用し,素子薄膜中の任意の場所に分極電荷を意のままに配置して,既存の素子の性能向上や,新しい動作機構の素子の開発へと展開させる。 上記の目的に沿って初年度は回転型KP装置の整備をすすめた。具体期には、新たに改良した回転型KP装置を蒸着装置に組み込み、Pythonでプログラムを作成して制御するシステムの構築をすすめた。テスト材料としてAlq3を取り上げて、蒸着しながら完全遮光下で連続的に表面電位を計測することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に組み上げた装置で,分極量が既知の材料の測定を行いながら,蒸着コントロール,表面電位測定を含めた測定の完全自動化を進める。装置が完成しだい,未知の材料の分極測定を開始する。軌道にのれば,従来1試料あたり2日かかっていた測定が,1日あたり2種類以上の試料の自動測定が可能と考えられ,有機EL材料を中心に極性有機半導体,有機絶縁体などを次年度も含めて計測を続ける。これと並行して,量子化学計算も進める。Gaussianパッケージを利用して,代表的な分子を選び,van der Waals (VDW)相互作用を含めた2分子間のポテンシャルを計算し,量子化学的な相互作用においてどのような分子配列配向がエネルギー的に望ましいのかを解析する。また,分子の電荷分布を双極子と四重極子で近似し,同様にクーロン相互作用を解析し,ミクロな総合作用の観点から自発分極の原因を探る。これと平行して,回転型KP装置をパルス蒸着モードでも運転し,パルス条件を変えることで分極の増減・反転が生じるかどうかを検証する。まずはデータが豊富なAlq 3単層素子を作成し,分極量のコントロールを行い,素子の電気特性がどう変化するか調べる。また,Bruetting教授のグループと連携して,素子特性をデバイスシミュレータを用いて解析する。
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