研究課題/領域番号 |
20H02810
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
石井 久夫 千葉大学, 先進科学センター, 教授 (60232237)
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研究分担者 |
田中 有弥 千葉大学, 先進科学センター, 助教 (90780065)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 有機EL素子 / 有機アモルファス膜 / 配向分極 / 巨大表面電位 / 回転型ケルビン法 / エレクトレット |
研究実績の概要 |
有機ELディスプレイなどに用いられる電気を流す有機材料を膜にすると,しばしば膜の表と裏に正負の電荷が勝手に発生し,素子の特性を大きく左右することが知られている。しかし,そのような電荷が発生するメカニズムは長年の謎となっていた。この研究では,この現象を精度良くかつ自動で測定できる 回転型ケルビン法装置 を開発し,多くの分子材料に関するデータを蓄積し,AIなども駆使して,発生機構の謎の解明を進める。さらに,膜の作成条件を変えて,電荷量を制御し,素子の特性の向上も試みる。このような技術を用いれば,有機ELディスプレイ・照明,有機太陽電池,振動発電機などの性能を一段と向上させることが可能となる。 前年度に完成した回転型ケルビンプローブ測定装置を用いて、Alq3などの有機EL材料の巨大表面電位の測定を蒸着しながらリアルタイム測定を行った。その結果、Alq3膜においては蒸着を終了すると時間とともに表面電位が変動する現象を見出した。これは、蒸着中は分子が配向分極するのに対し、表面では時間とともに分子配向がみだれることを意味している。すなわち、蒸着により表面に積層した分子は、直後は配向秩序を持っており、連続蒸着中はその配向が乱れる前に次の分子が積層するので配向が保たれるが、蒸着終了後は表面で分子構造緩和が生じていることになる。この知見は、自発配向現象の機構解明の鍵を握るものである。そのため、当初、さまざまな分子のGSPを測定して、データ蓄積を行う予定であったが、計画を変更して、この現象の詳細を追うことに集中した。また、膜厚の関数として表面電位を測定できたので、その2回微分をとることで空間電荷分布を決定できることも見出し、Alq3では蒸着速度のゆらぎに伴って空間電荷が発生するなどの知見も見出した。また、新藤発電を念頭にした自発分極の増強・保持時間の拡大などの条件探索も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Alq3における蒸着直後に表面電位が変化する現象を見出したので、当初予定の多くのサンプルの表面電位計測を行ってデータを蓄積する実験を後回しにすることになった。その点で少し計画より遅れをとっているが、かわりに、配向メカニズムの解明に直結する表面緩和現象を発見できた点は大きな進展であり、また、理論計算に必要なサーバーや手法の習得は進めることができた。また、新型コロナウィルス感染症のまん延のため共同研究先のアウグスブルグ大学との直接的な交流が難しかった。これらの以上の点を踏まえて、全体としてはやや遅れいているとした。
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今後の研究の推進方策 |
実験装置、計算環境は整備されたので、多様な有機分子に対する測定を今年度前期に集中的に実施し、データを蓄積し、当初のアプローチも進めていく予定である。蒸着直後の表面電位変化現象と合わせて、理論シミュレーションも行い、機構解明を進めていく予定である。
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