研究課題/領域番号 |
20H02811
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
三木 康嗣 京都大学, 工学研究科, 准教授 (60422979)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 光音響 / イメージング / 造影剤 / 近赤外色素 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、2021年度において(1)フタロシアニンを母体とする光応答性光音響造影剤の開発、(2) ナフタロシアニンを母体とする酵素応答性光音響造影剤の開発、(3) 還元物質応答性酸化型フタロシアニンの開発の3点に取り組んだ。 2020年度に開発したフタロシアニンの中心金属に水溶性のポリエチレングリコール(PEG)を結合させた光音響造影剤が形成するベシクルに光照射したところ、フタロシアニンとPEGを結合している部位が切断され、フタロシアニンの凝集体を生じることを見出した。ベシクルよりもフタロシアニン凝集体の方が光音響信号を効率よく発するため、光照射という外部刺激に応答する造影剤として機能すると期待される。 2020年度に開発したナフタロシアニンの中心金属にオリゴペプチド鎖を介してPEGを結合させた光音響造影剤を、オリゴペプチドを切断する酵素が存在する腫瘍細胞に作用させたところ、オリゴペプチド鎖が切断されナフタロシアニンの凝集が誘起されるとともに光音響信号強度が増大することを見出した。また、この造影剤をプロテアーゼが過剰発現しているがん細胞を移植したマウスに投与したところ、がん細胞に集積するとともに強い光音響信号を発することを明らかにした。 2021年度前期において、酸化型フタロシアニンの新しい合成法を開拓するとともに、PEGと酸化型フタロシアニンが連結した複合分子を創製した。この分子は、生体内還元物質として知られるグルタチオンと反応し、フタロシアニンを与えることを見出した。この分子にグルタチオンを作用させた溶液に近赤外パルスレーザー光を照射したところ、強い光音響波が観測された。また、同じ溶液に近赤外連続光を照射したところ、溶液温度が次第に上昇することを明らかにした。このことから、この分子は還元性物質グルタチオン応答性造影剤兼光熱療法用薬剤として機能する可能性が高い。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度当初立てた実施計画として、(1)フタロシアニンを母体とする光応答性光音響造影剤の開発、(2) ナフタロシアニンを母体とする酵素応答性光音響造影剤の開発、(3) 還元物質応答性酸化型フタロシアニンの開発の3点を挙げた。研究実績の概要で示した通り、フタロシアニンを母体とする光応答性光音響造影剤を開発し、期待通り光音響造影剤として機能することを明らかとした。光応答性反応機構が未解明であるため、2022年度に取り組む予定であるが、おおむね順調に研究が進んでいると言える。また、ナフタロシアニンを母体とするプロテアーゼ応答性光音響造影剤を開発し、マウスを用いる実験を通して腫瘍造影剤として機能することを明らかにした。この成果は論文発表しており、研究は順調に完了したと言える。酸化型フタロシアニンを母体とする造影剤兼抗がん剤の開発は、細胞を用いる実験の前段階まで進んでおり、2022年度に完了させる予定である。これらの成果は2021年度当初予定した通り研究が進捗したことを示しており、「おおむね順調に進展した」と評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況に記載した通り、本研究課題はおおむね順調に予定通りの進捗であると言える。2022年度の実験計画に変更を必要とする事象もなく、2022年度交付申請書記載のとおり、研究を進められる状況にある。
|