研究課題/領域番号 |
20H02812
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
井本 裕顕 京都工芸繊維大学, 分子化学系, 准教授 (40744264)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 有機元素化学 / 構造有機化学 / 金属錯体化学 |
研究実績の概要 |
本研究では、ヒ素含有共役系分子・高分子および金属錯体の機能を多角的に解明することを目的としている。申請者はこれまでに、従来のヒ素化合物合成法の最大の課題であった、揮発性・毒性を併せ持った前駆体を利用する点を大幅に改善し、不揮発性の無機ヒ素化合物を出発原料として鍵となる合成中間体を得ることに着目し、有機ヒ素化学を広く研究してきた。計画1年目である令和2年度は、これまでに申請者が確立した合成ルートを駆使することで、新しい共役ヒ素ユニットの開発とその高分子化、そして金属錯体の開発に取り組んだ。加えて、有機ヒ素化合物自体を触媒として利用した新たな反応開拓を行った。 共役系ヒ素ユニットとしては、ジピリジノアルソール・ベンゾアルソールを開発した。ジピリジノアルソールは、窒素の四級化によってビオロゲン骨格を形成し、電位をかけることで色が変化する「エレクトロクロミズム」を示した。ヒ素上は三価から五価へと酸化することで電子状態のチューニングが可能であった。また、ベンゾアルソールは、置換基の修飾やヒ素上の電子状態制御によって、その発光色や発光効率が大きく影響を受けることが分かった。ジベンゾアルソールモノマーを合成し、主鎖あるいは側鎖にジベンゾアルソールを有するポリマーの合成と光学特性解析を行った。さらに非対称構造によるキラリティを持ち、光学分割にも成功した。 機能性錯体としては、ヒ素配位子を有する発光性金属錯体やクラウンエーテルの1つの酸素をヒ素に置き換えたアルサクラウンエーテルの錯形成挙動について検討を行った。金あるいは銅錯体は金属間相互作用に由来するユニークな刺激応答性発光を示した。また、アルサクラウンエーテルは、ヒ素上に塩化金を配位することでアルカリ金属の取り込み能が向上する正のアロステリック効果を示すことや、塩化白金錯体の結晶がメタノールを選択的にセンシングできることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和2年度において、新たな共役ヒ素ユニットとしてジピリジノアルソールおよびジベンゾアルソールを開発することに成功した。これは、研究実施計画にあった「他のヘテロ元素・非対称構造の導入」が順調に進展していることを示している。さらに、ユニークな光学特性・電気化学特性・反応性が明らかになっているだけでなく、高分子化・光学分割といった、当初の想定を超える成果が生まれている。さらに、ジチエノアルソールを主鎖に有するポリマーが極めて高い耐光性を有するレーザー色素になることも見出しており、機能性材料としての大きな発展が見込まれる結果が得られている。 金属錯体に関しては、申請者が開発したヒ素配位子ライブラリーを活用して多彩な錯体の合成と構造・発光特性解析に成功しており、順調に進展している。さらに、アルサクラウンエーテルといった新しいタイプのヒ素配位子を合成し、その錯形成挙動を明らかにするなど、当初の計画を超える展開がみられている。 機能性有機化学の新展開として、ヒ素化合物自体の酸化還元特性を活用して、arsa-Wittig反応の触媒開発にも成功した。これは、有機反応化学における有機ヒ素化合物の重要性をさらに高める研究成果となっており、当初の計画を超えるものとなっている。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度では、共役系ヒ素化合物の多様性をさらに拡充し、環員数や含まれる元素の異なる化合物を新たに合成する。さらに、励起状態にも着目し、準安定状態への構造緩和によって生み出される特異な発光性を観測することを目指す。また、計算化学によって励起状態でのダイナミクスの解析にも取り組む。さらに、含ヒ素共役系高分子の新しい構造にも挑戦し、燐光発光性をもった含ヒ素共役系高分子の実現を目指す。 金属錯体においては、アルシンオキシド配位子を有するランタニド錯体の発光性に注目して、従来用いられてきたホスフィンオキシド配位子のケースと比べた光物理過程の違いを明確化し、高効率発光性ランタニド錯体の実現を目指す。また、新しいタイプのヒ素配位子を開発し、遷移金属触媒へと展開する。高活性触媒を与えるヒ素配位子には潜在的な需要がありながらもこれまで開発された例はなく、令和3年度中の実現を目指す。
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