研究課題/領域番号 |
20H02816
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
林 宏暢 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (00736936)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高次アセン / 基板上合成 / 構造物性相関 / ナノカーボン / グラフェンナノリボン / 前駆体 / 環状分子 |
研究実績の概要 |
従来の基板上合成を用いた高次アセン研究では、炭素と水素から構成される高次アセンの合成と物性理解に焦点が当てられていた。そこで当該年度の研究では、ベンゼン環が11個連結・縮合した高次アセンであるウンデカセンへの窒素導入効果を検討した。含窒素ウンデカセン前駆体を有機合成し、Empa(スイス)との国際共同研究によって基板上合成に展開した。その結果、ウンデカセンと同様に基底状態でビラジカル性を示すことを実験的に明らかにした。この実験の過程で、窒素部位が水素化された含窒素ウンデカセンやピロール環が縮環した構造体が副生成物として得られた。このような予想外の結果は、表面合成を利用した斬新なナノ構造体の創成につながる成果である。 また、昨年度に引き続き、基板上合成における新たな光反応の開拓として、Ru(0001)上にエピタキシャル成長したグラフェン上での光変換反応に関して研究を推進した。具体的には、光変換型ノナセン前駆体を有機合成し、グラフェン/Ru(0001)上に前駆体を蒸着した。光照射を行ったところ、100%の収率で前駆体からノナセンに変換することを見出した(Au(111)上の場合:80%)。さらに量子化学計算によって、この原因を明らかにした。これらの結果は、基板上合成を用いた複雑分子の効率的合成への礎となる。 さらに、超高真空下での実験を伴わない簡便なGNR作製法の開拓を試みた。具体的には、ジブロモアントラセンダイマーをAu(111)上にドロップキャストし、クーゲルロールを用いて、低真空下もしくはアルゴン雰囲気下で基板を加熱した。その結果、アントラセンダイマーが基板上で連結し2量化することを見出した。さらなる最適化・高温での加熱により、より長い多量体やアントラセンナノリボン合成への展開が期待される。また、アームチェア型フッ素修飾グラフェンナノリボンの液相合成に関する初期検討を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高次アセンの構造・物性相関理解に関して、ウンデカセンへの窒素の導入効果を世界に先駆けて明らかにし、論文として報告した。含窒素ウンデカセン前駆体の合成に必要な鍵化合物は、長さの異なる含窒素高次アセン前駆体合成に応用可能である。実際、窒素導入効果のさらなる検証のため、長さの異なる含窒素高次アセンの系統的な合成に着手している。また、本研究を介して偶然発見された独自反応のさらなる発展を目指し研究を推進している。さらに本研究では、基板上合成において、一般的に用いられているAu(111)以外の表面における光変換反応の実施と効率的反応進行を見出した。制約の多い現在の基板上合成に替わる手法開拓に関しては、有機合成研究室で汎用的に用いられている装置を用い、ドロップキャスト・加熱という簡便なプロセスを利用して、基板上でのジブロモアントラセンの2量化に成功した。また、汎用性があり大量合成可能な手法である液相合成を用いたグラフェンナノリボン作製として、エッジに部分的にフッ素が導入されたグラフェンナノリボン合成を検討した。 さらに、一連の研究を通して得られた興味深い中間体や生成物の光学特性評価や有機デバイスなどへの応用により新たな研究展開を模索し、適宜論文として報告している。 これらの成果から、おおむね順調に進展している、と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当該研究では、(1)高次アセンの構造・物性相関理解の深化、(2)光反応を利用した基板上ナノカーボン合成の実現、(3)制約の多い従来型の基板上合成手法からの脱却、の3点に関して推進中である。含窒素ウンデカセン合成の過程において得られた、単結晶金属表面における特殊反応の発見は、今後、斬新なナノ構造を創出する独自反応として期待される。長さの異なる含窒素高次アセンでも同様の現象が起こるのか、その一般性を検証するとともに、新たな反応開拓に繋げる。光を用いたナノカーボン材料の創出に関しては、新たな光反応の開拓や、分子構造と単結晶金属表面での反応機構との関係を明らかにする。さらに、(3)制約の多い従来型の基板上合成手法からの脱却に関しては、ドロップキャスト法による滴下条件や基板の加熱条件を最適化することでGNR合成へ展開することに加え、液相合成を用いたGNRを引き続き検討する。
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