研究課題/領域番号 |
20H02820
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
山田 高広 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (10358260)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ジントル化合物 / 極性金属間化合物 / 熱電材料 / ラットリング / 超伝導 / トポロジカル物質 |
研究実績の概要 |
初年度に見出されたトンネル構造を有する低熱伝導性のNa2CdSn5に対して種々の元素置換を試み,熱電特性の向上を試みた結果,Cdに対するAg置換によりキャリアドーピングに成功し,電気伝導性を大きく増加させることができた.これにより,室温から150℃までの無次元性能指数(ZT)の値は,0.01-0.07(無置換試料)の低い値から0.13-0.23(Ag2%置換試料)にまで向上した. 物質探索を行い,2つの新規化合物を見出した.その一つであるNaMgBiは,前年度より研究を進めているトポロジカル半金属NaAlSiと同型の層状構造であることを単結晶X線構造解析により明らかにした.NaMgBiの単相焼結体試料(相対密度は70%)を得ることにも成功し,その電気・熱特性の計測により,NaMgBiはバンドギャップの小さな半導体であることがわかり,それらの結果は電子状態計算によっても支持された.また,Na-Cd-Sb系においても新規化合物を発見し,その結晶構造は,Cd-Sbの層状ネットワークがNaを挟んで積層した層状化合物であることがわかりつつある. 初年度にノーダルライン半金属のNaAlSiが特異な超伝導性を示すことを見出したため,本課題の焦点や対象をトポロジカル物質とそれらの物性評価にまで拡げた研究を展開した.育成したNaAlSi単結晶を用いて種々の測定を共同研究者と共に行い,NaAlSiの超伝導性にはバルクとバルク以外に由来する2つの成分があることが分かってきた.また,NaAlSiと同型構造で非超伝導性のNaAlGeやNaAl(Si, Ge)固溶体の単結晶の育成にも成功し,それらを用いて物性測定を行った.それら結果,固溶体のGe置換量に伴い超伝導性が突然消失すること,NaAlGeは計算された電子状態とは異なる低キャリア濃度の基底状態を有していることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年よりコロナウイルスの感染状況の推移が予測できないため,SPring-8などの量子ビームを利用した外部の大型施設に課題申請して測定を行う目処が立たず,本年度からは,自身の研究室で行える新規化合物探索を含めた試料合成と特性評価,および共同研究者の施設内のおいて送付した試料の物性を評価することに注力した.その結果,昨年度に見出したラットリングによる低熱伝導性を有すると考えられるNa2ZnSn5のAg置換により熱電特性を向上させ,Naを含む層状構造を有した2つの新規化合物を見出すことができた.そのうちの一つであるNaMgSbについては年度内に結晶構造を決定し,それらの基礎的な電気・熱的特性を明らかにすることで,論文として発表することができた.また,Na-Cd-Sb系の新規化合物も,2次元的なCd-Sb層の間にNaを有したユニークな結晶構造を有していることが明らかになりつつあり,現時点では,その単相試料も合成できている.そのため,来年度には,この物質のNaのラットリング状態を含めた特性を詳細に明らかにできると考える. 初年度に思いがけず得られたトポロジカル物質のNaAlSi単結晶を用いて,その超伝導性を精査に評価し,論文や学会等で精力的に発表したことより,本年度は様々な研究者から試料の提供や共同研究の依頼を受けた.そして,NaAlSiの超伝導性とその特異性について多方面からの評価が進行している.また,NaAlGeやNaAl(Si, Ge)などの類縁化合物の単結晶合成とそれを用いた物性評価も行うことができた.これらのよりから,本年度も研究を順調に進捗させることができたと考える.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度においても、種々の低次元構造を有するジントル化合物を含む極性金属間化合物の探索を続けながら,初年度より研究対象としているトンネル構造のジントル化合物群について,各化合物のNaのラットリング状態に着目した研究を系統的にすすめ,一連の化合物を俯瞰した上で,ラットリングが各化合物の低熱伝導性に及ぼす影響と,熱電材料としての可能性を明らかにする.また,昨年度の物質探索研究において見出した層状構造を有したNa-Mg-Bi系およびNa-Cd-Sb系化合物の単相の緻密焼結体を合成し,それらを用いて熱電特性の詳細を明らかにするともに,Naのラットリング状態などを調べ,各化合物の熱伝導率に寄与する要因を明らかにする.さらに,これらの化合物に対して異種元素置換を行うことで,各化合物のキャリアやラットリング状態を変化させ,より高い熱電特性を発現させることを試みる.また,初年度より単結晶の作製に成功し、その物性評価によって特異な電子物性や超伝導性が明らかになりつつある層状構造の極性金属間化合物NaAlSiについて、本年度も引き続き、トポロジカル物質(ノーダルライン半金属)としての観点からの物性評価を進める.具体的には、磁気トルク測定などの高い専門性を有する測定を含めた物性評価を共同研究者らと共に進めることで、NaAlSiの超伝導性についてより深い知見を得ることを目指す.また、NaAlSiと同型構造で類似した電子状態を有しながらも超伝導性を示さないNaAlGeや、NaAlSiとの固溶体NaAl(Si,Ge)についても良質の単結晶を作製し、系統的な各種物性の評価を進める.またこれらNa-13族元素-14族元素系以外の同型構造を有する極性金属間化合物にまで対象を広げて合成と物性測定を行い、一連の化合物の超伝導性を含む基底状態と,それらを支配する要因を精査する.
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