研究課題
本研究課題では、再生可能エネルギーを一次エネルギーとした水素社会の実現に資するため、高効率・長寿命なアルカリ水電解のための自己修復触媒のメカニズム解明、新規材料開発を推進している。アルカリ水電解アノードでは、電解の起動停止を繰り返すと触媒の剥離・溶解や構造変化が生じ、性能劣化する問題がある。ハイブリッド水酸化コバルトナノシート(Co-ns)はそれ自体がアノード触媒として機能するが、アルカリ電解液中に分散させておくと、電解中に劣化したアノード触媒上に堆積し、劣化部を修復して性能を維持することができる。R2年度はCo-nsを用いた触媒層形成過程の詳細検討と、Ni、Fe、Co系新規触媒の検討を行った。触媒層形成過程を詳細に分析するために、基板の実表面積及び堆積したCo-nsの電気化学的推定法を確立した。Co-nsの堆積には、一定電流を流通して堆積させる連続法と、定電流と電位走査を繰り返し、起動停止を繰り返すサイクル法を比較した。いずれの場合も電極基板全面を触媒で被覆することができるが、連続法では平坦な触媒層が得られ、サイクル法では触媒堆積量がある程度の段階で頭打ちとなり、触媒表面もより粗面化することが分かった。また、連続法で得られた厚い触媒層は、触媒層の厚みに比例して電解性能が向上することがわかった。以上の知見を元に、触媒修復の最適条件を検討する。一方、触媒構成成分としてNi、Fe、Coの三成分を用いた新規触媒の探索により、Co-nsに比して10 mA/cm2における過電圧を50 mV以上と大幅に切り下げる自己修復触媒を見いだした。また、この探索過程で自己修復触媒の性能向上には触媒自体が持つ活性と電解液への分散性の両方が重要であり、それらの制御に構成元素の組み合わせ制御が有効であることが明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究課題では、自己修復触媒の触媒層形成及び修復のメカニズムの解明と高活性な自己修復触媒の開発を目的としている。メカニズムの解明については、R2年度に基本的な手法の確立、起動停止の影響の解明を行い、順調に進展している。高活性な自己修復触媒の開発については、R2年度の段階で当初目標としていた、既存文献における最高活性レベルの触媒活性を達成し、計画を大幅に短縮することができたため、今後は既存文献を越える触媒活性を目標として進めていく。また、触媒層形成メカニズムの探索の過程で、触媒活性が触媒層の膜厚に比例して増加するという結果を得た。これは一見すると当たり前だが、酸素発生反応では表面が発生気泡に覆われて触媒層内部が反応不活性になるのが通常であるため、何らかの気泡排出促進が生じている可能性がある。この点についても継続して検討を進めることで、自己修復触媒に独特の高活性発現メカニズムを明らかにできる可能性が出てきた。
本研究課題は順調に進展しており、計画通り触媒層の形成・修復メカニズムの解明、高活性触媒の開発を進めることに加え、気泡排出促進機構の解明、既存文献のレベルを凌駕する高活性の開発を視野にいれつつ研究開発を継続する。具体的には、メカニズム解明の実験においては、触媒層劣化部の選択修復に関する実験、自己修復触媒の官能基の影響を検討する。高活性触媒の開発の実験では、構成する各元素の役割の推定と構成元素を拡張してさらなる高活性化を検討する。
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