酸化物触媒における格子酸素の反応性は、しばしばその触媒活性に大きな影響を与える。本研究はCeO2を対象として、高い反応性の格子酸素を実現するための材料設計指針を確立することを目的としている。 2023年度は引き続き、格子歪みに着目して研究を進めた。基板としてペロブスカイト型構造をもつSrTiO3の(001)面の単結晶基板を用い、パルスレーザー堆積法により種々の膜厚のCeO2薄膜を作製した。ペロブスカイト型酸化物の擬立方表記による(001)面は、面内方向に45度回転させるとホタル石型酸化物の(001)面との格子のマッチングがよく、SrTiO3の場合はCeO2に対して最大2%程度の引張り歪みを与えることが可能である。得られた薄膜について、断面方向から原子分解能の走査透過電子顕微鏡観察と、CeのM吸収端について電子エネルギー損失分光測定を行うことでその原子配列とCeの価数分布を評価した。その結果、膜厚が2.3nmから3.6nmと増えるに従いCeO2の格子歪みが緩和する挙動が見られ、それと同時にCeの価数が3価から4価へと変化した。面外方向の格子定数に対する面内方向の格子定数の比に対するCeの価数をプロットすると、両者には負の相関が存在することが明らかとなった。イットリア安定化ジルコニアの(001)面の基板上にCeO2の極薄膜を作製し、圧縮歪みの効果を検討した昨年度の結果と合わせると、Ceの価数、すなわち酸素空孔量は、圧縮・引張りの方向に関わらず格子歪みにより制御可能であることが明らかとなった。
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