研究課題/領域番号 |
20H02828
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
小林 玄器 分子科学研究所, 物質分子科学研究領域, 准教授 (30609847)
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研究分担者 |
桑原 彰秀 一般財団法人ファインセラミックスセンター, その他部局等, 主任研究員 (30378799)
野田 泰斗 京都大学, 理学研究科, 助教 (00631384)
竹入 史隆 分子科学研究所, 物質分子科学研究領域, 助教 (20824080)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ヒドリド導電体 / 酸水素化物 / 固体電解質 / 固体イオニクス |
研究実績の概要 |
酸水素化物を対象に物質探索を行い、K2NiF4型構造の新規ヒドリドイオン導電体Ba2YHO3を発見した。X線回折と中性子回折による結晶構造解析から、格子内の酸化物イオン(O2-)がYX6 (X = H, O)八面体の面内を、ヒドリド(H-)が八面体頂点を選択的に占有し、かつ、頂点位置ではH-とO2-が規則化していることが明らかになった。つまり、Ba2YHO3は[Ba2O2]層、[YO2]層、[Ba2H2]層が積層した構造となる。このHとOのサイト選択性は、我々が過去に報告したLi系、Sc系酸水素化物と同様に、ポーリングの静電電荷則で説明することができる。一方、Sc系とY系を比較すると、岩塩層内でH/Oが不規則配列するSc系に対して、Y系では規則化している。これは、許容因子の観点から説明することができ、Baとのイオン半径比が小さいY系では、格子の歪みがH/Oの規則化(対称性の低下)によって緩和されていると考えられる。イオン導電率は、Hよりも動き難いOが同一サイトに共存しないY系の方が高い値を示し、格子内でH/Oが規則化し、Hだけの拡散パスが形成されることの重要性が示唆された。 また、300℃以上で、H-超イオン導電性を示すBa-Li系酸水素化物については、超イオン導電相への相転移過程を温度可変の中性子回折とDSC測定から調べた。その結果、低温で規則化したBaとBa空孔、Li八面体面内のH-とH空孔、頂点位置のH/Oが2段階で不規則化することが明らかになった。なお、超イオン導電性の発現には、主に面内のH-/空孔の不規則化が寄与していた。 合成、計算、計測の融合によるH-の拡散機構解析も、H-超イオン導電状態でH-が集団運動している兆候を捉えており、順調に進展している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Y系酸水素化物の合成を通して、カチオンの価数とサイズのバランスを調整することで格子内のアニオン配列を制御できることが明らかとなった。また、Ba-Li系酸水素化物では、H-超イオン導電性発現が主にH-とH空孔の不規則化に起因することが明らかになった。これらの知見は、いずれも今後の物質開発の進展に資する知見である。また、計算、計測グループとの連携も順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
[合成]: BaLi系酸水素化物の研究を通して得られた知見を基に、超イオン導電相を低温で安定化させるために種々の元素置換を施す。また、K2NiF4型構造以外の結晶系に物質探索の対象を広げ、より低い温度で高い導電率の達成を目指す。 [導電機構解析]: MDシミュレーション、第一原理計算から予想されたH-超イオン導電状態におけるH-の拡散モデルを、中性子準弾性散乱(QENS)、固体NMR、核密度分布解析などから検証し、高導電性が得られる時のH-の集団運動を理解する。
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