研究課題/領域番号 |
20H02829
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
吉井 賢資 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究主幹 (90354985)
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研究分担者 |
池田 直 岡山大学, 自然科学学域, 教授 (00222894)
矢板 毅 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究主席 (40370481)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 希土類 / 酸化物 / 負の磁性 / 誘電性 / マルチフェロイック |
研究実績の概要 |
前年度の結果を踏まえ、主に、室温近傍で負の磁性が見られたスピネル系の探索を行った。放射光吸収データを用いた局所構造は確定していないため、他のアプローチで研究を行った。応用的見地から、ニッケルよりもクラーク数の大きいマンガンに一部置換するなどの合成を試みたが、現状では負の磁性は観測されていない。さらには、リチウム鉄スピネルなどアルカリ金属を含む系についても探索を行った。負の磁性は見られたものの、負の磁性が発現する温度(補償温度)は最高で280K近傍であり、室温には到達していない。 別のアプローチとして、過去の論文から、ペロブスカイトクロム酸化物を還元雰囲気中で加熱すると磁気転移温度が上昇するという報告があるため、この手法を試行した。負の磁性を示す(La,Pr)CrO3およびGdCrO3について、CO-CO2混合ガス雰囲気中で1000℃近傍での加熱を行った。COとCO2の流量比は3:1程度で試行した。(La,Pr)CrO3およびGdCrO3の磁気転移温度はそれぞれ250Kおよび170K近傍であり、還元雰囲気での加熱においては1Kほどの上昇傾向が見られたものの、大幅な上昇は観測されなかった。 以上と並行し、派生的な研究を報告した。磁気冷凍物質の可能性が指摘されている上記GdCrO3について、5%程度Biを置換して合成すると、固相反応における合成温度が1100℃から900℃近辺まで下がることを学会にて報告した。また、クロム酸化物の新規物性の探索を行い、190KにおいてCrとCuの電荷秩序転移と磁気転移が同時に起こるBiCu3Cr4O12において、2つの秩序を同時に用いて効率的な冷凍が行えるマルチ熱量効果を論文発表した。また、電子誘電体RFe2O4について、イオン半径の異なる2つの系の電子線回折測定を行い、鉄三角格子間の距離によって電荷秩序構造の次元性が変化することを論文で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度においては、局所構造の解析などが終了していないものの、室温における負の磁性物質が得られており、研究代表者が主体となる学会発表を1件実施したことや共著となる論文が3件発表されたこと、さらに、マルチ熱量効果の論文はプレス発表され、数件の新聞報道がなされたこと等から、おおむね順調に進展している。と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、放射光吸収分光測定の局所構造の解析を行い、遷移金属イオンがスピネルの4配位サイトか、あるいは6配位サイトに存在するかなどの決定を行う。このような局所構造が判明すれば、電子状態計算を行い部分状態密度を計算し、元素置換した場合や構造を変化させた場合に、状態密度の増加からさらに磁気転移温度が上昇する系が存在しないかの検討を行う。また、還元雰囲気中での加熱処理に加え、磁気転移温度を上昇させる別の試みとして、スパッタ法などの薄膜作成を行い、強制的に原子間距離を制御する。
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