研究課題/領域番号 |
20H02831
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研究機関 | 北見工業大学 |
研究代表者 |
平井 慈人 北見工業大学, 工学部, 准教授 (80756669)
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研究分担者 |
八木 俊介 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (60452273)
大野 智也 北見工業大学, 工学部, 教授 (90397365)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 酸素発生反応 / 酸素発生触媒 / イリジウム複合酸化物 / 金属-絶縁体転移 / 金属空気電池 / 電子相関 / ペロブスカイト関連構造 / 水分解 |
研究実績の概要 |
金属-絶縁体転移の境界領域にあるペロブスカイト関連構造のBaIr1-xMxO3(Mは遷移金属)を固相法によって合成し、その結晶構造がBaIrO3と同一であることを確かめたうえで、その酸素発生触媒能を測定した。酸素発生触媒能の評価には、「触媒担持液を塗布した回転リング-ディスク電極」を用いて、固体高分子形(PEM)水電解セルへの応用を念頭に酸性電解液中(0.5 M H2SO4)で電気化学測定を実施した。酸素発生触媒能は過電圧と電流密度によって評価した。また、酸素発生反応に対する耐久性は酸素発生反応を1000サイクル繰り返した後の触媒能を1サイクル目の触媒能と比較して評価した。酸素発生反応前後のIrの価数はX線吸収分光法によって観察した。また、亜鉛空気二次電池の正極への実装も行った結果、BaIr1-xMxO3が多数回の充放電にも耐えうる電極触媒であることが確かめられた。
BaIr1-xMxO3(Mは遷移金属)は初期活性だけでなく耐久性においても、典型的な酸素発生触媒であるIrO2よりも高く、また反応の前後でIrの4価の一部が5価に酸化したものの、Irの価数はほぼ一定であり、酸素発生反応中のカチオンの溶出量が極めて少ないことが明らかになった。また、適切なMとxを選択すれば、BaIrO3と比較しても、BaIr1-xMxO3の触媒安定性が増強されるだけでなく、初期活性も増強できることが明らかになった。これは、母物質であるBaIrO3の構造安定性が十分に高いことに加えて、触媒表面の遷移金属イオンによって、BaIrO3以上に酸素発生反応に対して安定な表面が形成されたためと考えられる。これらの研究成果について、2022年5月開催の日本材料科学会 マテリアルズ・インフォマティクス基礎研究会において講演を行うことが決定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、金属-絶縁体転移の境界領域にあるBaIr1-xMxO3(Mは遷移金属)の合成ならびに酸性電解液中での酸素発生触媒能の評価を行うことができた。また、その結晶構造がBaIrO3と同一であることを確かめたため、BaIrO3と酸素発生触媒能を公平に比較できる触媒の合成に成功したと言える。さらに、BaIr1-xMxO3は全ての面において、典型的な酸素発生触媒であるIrO2よりも酸素発生触媒能が高く、また反応の前後でIrの4価の一部が5価に酸化したものの、Irの価数はほぼ一定であり、酸素発生反応中のカチオンの溶出量が極めて少ない酸素発生触媒の開発に成功した。すなわち、遷移金属MによってIrの一部を置換することで、酸素発生反応に対する高い耐久性をさらに増強した上で、初期活性も増強することができた。これは、金属-絶縁体転移の境界領域ではd電子間に働く相互作用によって酸素発生触媒能が増強されるという考え方がアルカリ電解液だけなく、酸性電解液においても適用可能であることを示しているだけでなく、触媒表面の遷移金属イオンによって、BaIrO3以上に酸素発生反応に対して安定な表面が形成されているものと考えられる。さらに、BaIr1-xMxO3の亜鉛空気二次電池の正極としての実用化を目指して、電池の性能試験を行った結果、多数回の充放電にも耐えうる電極触媒であることが確かめられた。酸素発生触媒として優れるだけでなく、亜鉛空気二次電池にも搭載可能なことを示した意義は大きいと考える。
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今後の研究の推進方策 |
まず、酸素発生反応(OER)に対して優れた触媒であるBaIr1-xMxO3(Mは遷移金属)の安定性と初期活性の両面からの最適化を行うとともに、この成果を国際的な学術誌において論文化する。次に、より高表面積の試料合成ならびに、合成可能なルートの拡大のために、前駆体溶液の設計の工夫を始めとした新たな合成手法による酸素発生触媒の開発を行う。また、触媒粒子の分散制御による亜鉛空気二次電池の性能の最適化も引き続き行う。具体的には、空気電池のガス拡散電極に用いるカーボンペーパーと触媒粒子の構造化も含めて行うとともに、BaIr1-xMxO3と酸素還元触媒の触媒粒子の複合化を行う。 前駆体溶液の設計を工夫することで合成可能なBaIr1-xMxO3ならびに新規のイリジウム複合酸化物の範囲を拡大して、「OER前の価数および電子構造」と「酸素発生触媒能」の相関関係ならびに、d電子間に働く相互作用の酸素発生反応の反応機構に果たす役割を明らかにするだけでなく、触媒表面の遷移金属イオンによって形成された安定な表面におけるOERの反応機構の解明を系統的に行う指針である。この反応機構の解明は電気化学の進展に寄与するだけでなく、特に充電性能の増強という観点において、亜鉛空気二次電池の高性能化に直結するものと考える。
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