燃料電池の電極などに用いられる炭素材料は、酸化反応に弱いという欠点があり、電気化学的酸化反応による劣化が問題視されている。しかし、電気化学的酸化反応の具体的なメカニズムの理解は未だ不十分である。本研究ではカーボンブラックの電気化学的酸化挙動を重水素標識昇温脱離分析(D-TPD)で追跡した.その結果,酸化電位1.5 V vs. RHEにおける含酸素官能基の形成速度が,初期の炭素表面のエッジサイト量だけでなく,H2Oの電気化学的酸化触媒能力に左右されることが分かった.H2Oの電気化学的酸化触媒能力が炭素のどのような化学構造によってもたらされるのか,現状ではまだ明確な答えは得られていないが,少なくともエッジサイトは触媒サイトとして機能していないことが実験的に確かめられている.今後,エッジサイト以外の炭素の化学構造と触媒能力の相関関係を調査し,触媒サイトの同定に結びつける予定である. 燃料電池等の炭素電極の動作電位は1.23 Vよりも低く,低電位領域における電気化学的酸化の理解は極めて重要である.酸化電位1.5V vs. RHE以下での電気化学的酸化挙動を調査した結果,酸化電位によって形成される含酸素官能基の種類が異なることが分かった.具体的には,0.2,0.8,1.0,1.2 V vs. RHEの酸化電位でそれぞれ,カルボニル,フェノール,エーテル,カルボキシル基が形成されることを見出した.酸化電位がこれら含酸素官能基の形成にどのような原理によって影響を当てるのか,まだその理解は途中段階であり,今後調査を継続して進めていく予定である.
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