研究課題/領域番号 |
20H02845
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
本多 謙介 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (60334314)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アモルファスカーボン / 二酸化炭素還元 / 電気化学触媒 / 光触媒 |
研究実績の概要 |
二酸化炭素(CO2)から燃料(アルコール)を合成する研究開発(CO2の固定化)は、環境と資源・エネルギーの問題を同時に解決可能となる技術である。しかし、CO2から一酸化炭素COへの還元反応は、標準電位が-0.53V vs. NHEであり、H2生成反応の標準電位(0V vs. NHE)より卑電位側であるため、水溶液中でH2生成反応の阻害を受けずにCO2を電気化学に還元、あるいは光触媒により還元することは困難である。このため、高活性(H2生成とCO2還元の分離)と高耐久性を併せ持つCO2還元電極の具現化には未だ至っていない。 我々は近年、Bおよび窒素(N)を含む炭化水素(液体)を原料としたプラズマCVD法でBおよびN原子をa-Cに不純物として添加し、光学ギャップ0.5eVのn型・p型半導体材料の作成に成功した。また、導電性Nドープa-Cを電気化学電極にすると、水電解によるH2・O2発生が非常に高電位でしか起こらず(H2・O2発生反応の過電圧が高い)、3Vに及ぶ広い電位窓を示す。a-C表面においてH2生成過電圧が非常に高くなる特性を利用すれば、H2生成反応に阻害されることなく、電気化学的にCO2還元可能な、高効率で安定性の高いa-C電気化学触媒電極と、CO2還元光触媒を実現できる。 本年度は、研究開発ステップの第二段階として、COラジカルの吸着力を高めるための表面構造制御手法の開拓を行った。結果として、窒素をドープした導電性a-C表面をアンモニアプラズマ処理することにより作成した、表面カルボニル基と表面アミノ基を有する導電性a-C電極が、二酸化炭素をギ酸に電気化学的に還元できることを見出した。表面に導入したカルボニル基は二酸化炭素に対する吸着特性を向上させる働きをし、アミノ基は二酸化炭素を還元するための還元活性サイトとして働くことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、H2発生過電圧の上昇制御とCOラジカル吸着力制御によるCO2還元触媒電極の開発において、当初の計画で設定した、生成物をHCOOHからCOへと変更可能な表面構造の探索を行った。NドープCNTでは、COラジカルはピリジン型Nに強く吸着するとの報告がある。我々の研究グループは、合成時のピリジン添加によって、a-C表面へのピリジン型Nの導入と酸素を4電子還元することを可能とする活性の付与に成功している。このa-C表面にピリジン型Nを導入してCOラジカル吸着力を上昇制御し、生成物をCOとする表面構造を探索する予定であった。 研究の結果、アンモニアプラズマ表面処理により導電性Nドープa-C表面へのカルボニル基とアミノ基の導入により二酸化炭素還元活性を発現させ、その導入密度の制御により還元活性を向上させることが可能であることを発見した。表面カルボニル基は二酸化炭素に対する吸着特性を示し、電極表面での二酸化炭素濃度を上昇させる働きをする。表面アミノ基は二酸化炭素と反応し、その生成物の還元によってギ酸が生成することが明らかになった。この発見は、当初の予測とは異なるものであったが、目的を達成することができた。したがって、おおよそ計画通り、順調に進展しているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の三年目においては、 H2生成を抑制したCO2還元a-C光触媒の開発と電子―ホール分離効率を高めたCO2還元a-C光触媒の創製を行う予定である。 Si添加a-C半導体は、①バンド位置を任意に制御可能で、価電子帯上端が水の酸化準位より下に位置し、伝導帯下端をCO2の還元準位より上に制御することができる。また、②紫外光照射下で自己酸化せず、③H2発生過電圧が高い。合成時に対象化合物に吸着性を示す原料の添加で、④COラジカル吸着サイトを導入できる。さらに、我々が独自開発した細孔板を導入した局所集中プラズマ合成法により、⑤空間電荷層を形成しない小さなナノ粒子化(直径15 nm)も可能である。以上、CO2還元光触媒に求められる五つの要件を満している。我々は、表面にピリジン型Nを導入した光学ギャップ2.34eVのNドープSi添加a-C半導体ナノ粒子を用いると擬似太陽光照射下で水還元によってH2を生成可能で、水素生成速度が496μmol g-1 hr.-1と、TiO2+Pt助触媒(1954μmol g-1 hr.-1)と同じ活性レベルを既に達成している。 本研究では、Si添加ナノ粒子表面にH2生成過電圧を高める表面構造を導入し、a-Cの伝導体下端の位置を制御することで光励起電子のH2発生反応への移動を抑制し、高効率にCO2還元反応を起こすことの可能な光触媒を創製する。さらに、COラジカル吸着サイトを表面へ導入し、COを生成可能なa-C光触媒の具現化を試みる。また、p型半導体(O2生成光触媒)とn型半導体(CO2還元触媒)の接合で発生する内部電場(Voc)を利用して、ホールと電子の分離効率を上昇させ、エネルギー変換効率の向上を目指す。
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