研究課題/領域番号 |
20H02850
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
須川 晃資 日本大学, 理工学部, 教授 (40580204)
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研究分担者 |
加藤 隆二 日本大学, 工学部, 教授 (60204509)
田原 弘宣 長崎大学, 工学研究科, 助教 (80631407)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アップコンバージョン発光 / アンチストークスシフト / 光/熱エネルギー変換 / パーセル効果 / スピン軌道相互作用 |
研究実績の概要 |
本研究は,金属ナノ粒子の表面プラズモン共鳴が生み出す種々の物理現象を利用し,三重項対消滅に基づくアップコンバージョンシステムの性能向上(発光の増幅,アンチストークスシフトの拡大,レアメタル元素の不使用化)を目指すものである.特に当該年度では,増感分子の三重項エネルギーレベルが発光分子のそれよりも幾分低いアップコンバージョンシステムにおいて,「増感/発光分子間エネルギー移動の,プラズモン共鳴による円滑化の実現」をマイルストーンとした.当該アップコンバージョン発光の効率化は,アンチストークスシフトの拡大に直結する. 実験では,増感分子の三重項エネルギーレベルが発光分子のそれよりも0.18 eV低いアップコンバージョンシステムにおいて,室温下では微弱なアップコンバージョン発光のみ示された.次に,当該アップコンバージョンシステムとは無関係な波長域(赤外域)においてプラズモン共鳴を発現する金属ナノ粒子をシステムに組み込んだ.結果,赤外レーザーを照射することによってアップコンバージョン発光の明確な増幅効果が得られ,すなわち,金属ナノ粒子のプラズモン共鳴による高い光熱変換現象によって,増感分子/発光分子間のエネルギー移動が著しく円滑化することが実証された. また,プラズモン共鳴を利用するアップコンバージョンシステムにおいて,適した増感分子が存在するという予期せぬ成果もあった.これまで代表者らは増感分子におけるプラズモン共鳴の作用には,望まれない消光の因子をも包含することを明らかにした.しかし,系統的な増感分子とプラズモン共鳴との相互作用を検討することで,この消光効果が誘起されない増感分子が存在することを本研究にて明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の研究進捗は,申請時に設定した当該年度のマイルストーンを満たした.すなわち,増感分子の三重項エネルギーレベルが発光分子のそれよりも0.18 eV程度低いアップコンバージョンシステムにおいて,プラズモン共鳴の光熱効果によって増感/発光分子間のエネルギー移動が円滑化されうることが実証された.また,その効果は著しく,アップコンバージョン発光が最大で約10倍にまで増幅されることが見出された. また,予期していなかった成果も得られた.研究代表者はこれまでに,三重項励起状態の増感分子と金属ナノ粒子の表面プラズモン共鳴との相互作用には,アップコンバージョン発光の望まれない消光効果を誘起する因子が含まれることを明らかにしてきたが,この消光効果を示さない増感分子が存在することを新たに見出した.さらにその機構として,増感分子のスピン軌道相互作用の強度が鍵となっていることを明らかにした.この知見は,次年度の目的である,スピン反転光学遷移/プラズモン共鳴間相互作用を利用するアップコンバージョンシステムの創製に大きく貢献するものである.ゆえに,上記の区分が適当であると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策は,申請時の研究計画を遵守する. まず,アップコンバージョンシステムのアンチストークスシフトの拡張検討に向けては,今年度の成果であるプラズモン共鳴による増感分子/発光分子間のエネルギー移動の円滑化現象に基づく.すなわち,増感/発光分子間の三重項エネルギーレベルのエネルギー差を0.18~0.30 eV間で系統的に変化させ,プラズモン共鳴によるエネルギー移動の円滑化を図れる閾値を見出す.この検討によって,アンチストークスシフトの拡張の最大化を図る. 次に,基底一重項/励起三重項間光学遷移をプラズモン共鳴の急峻電磁場勾配を利用することによって極限まで高める.この現象を利用したアップコンバージョンシステムの創製によって,アンチストークスシフトの拡張と強アップコンバージョン発光が両立されたシステムの開発に挑む.今年度の成果として,スピン反転光学遷移におけるプラズモン共鳴の影響は,増感分子のスピン軌道相互作用に大きく依存することを実証した.これら知見に加え,急峻電磁場勾配が増感分子の三重項励起状態に及ぼす影響を明確化することによって,上述の目的が実現されうる.
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