研究課題
光合成細菌の最もコアな部分である光捕集反応中心超分子複合体(LH1-RC)は、特異な分光学的性質とユニークな立体構造をもつ。本研究では、様々な極限環境下に生きる光合成細菌(好熱、好冷、好塩、好アルカリ、好酸など)を用いて、(i)光捕獲と光電変換を司るLH1-RC複合体の特異な分光学的挙動の特定、(ii)過酷な生育条件にも耐えうる光合成膜とLH1-RCの構造安定性の評価、(iii)これらの分光学的特性と構造安定性をもたらす構造的要因の原子レベルでの解明を目的とする。本研究で得られる知見から、より実用性の高い高効率の集光アンテナと光電変換素子の作成ならびに人工光合成システムの構築に対して根拠となる設計指針を与える。本年度はこれまで最も良く研究され、光合成細菌のモデルとして用いられてきたRhodobacter (Rba.) sphaeroides由来の光捕集反応中心複合体LH1-RC二量体構造を決定し、詳細なキノン輸送経路を原子レベルで調べることを可能にした。二量体構造は単純に単量体が2個結合した形状ではなく、非対称な形をとり、構成する2つのLH1-RC単量体のキノンの出入口は、互いに位置やサイズが異なり、エネルギー変換の調節機能をもっている可能性が示唆された。さらに、LH1-RC単量体複合体から2021年に発見したprotein-Uは、欠損株のタンパク質精製実験から二量体の安定化効果があることがわかっていたが、今回新たな欠損株の立体構造を決定し、protein-Uが単量体の安定化にも役立っていることが明らかとなった。この成果は国際学術誌(Nature Communications 13, 1904; 2022)に掲載された。
2: おおむね順調に進展している
昨年度はRba. sphaeroidesの単量体LH1-RCの構造を決定し、その後二量体の構造解析を開始した。今年度は二量体LH1-RCに加え、好酸菌や好熱菌由来のLH1-RC複合体の構造解析も行った、極限環境下における光合成機能の最適化機構を明らかにした。現在これらの成果をまとめる学術論文の発表に目処がついたことから総合的に判断した結果、上記の評価とした。
これまで常温菌に加え、好酸菌と好熱菌由来のLH1-RC複合体の構造解析を行った。今後より極限な環境下に生息する高度好塩・好熱・好アルカリ菌由来の光捕集複合体の構造を明らかにして行きたい。これらの菌体には培養が困難で、成長が遅いものが多く、さらにタンパク質複合体の単離精製が難しい場合が想定される。本研究はこれらの未知領域に踏み込み、極限環境下に生きる微生物の生存戦略の解明に挑む。今後これらの成果の公表に向けて取り組み、さらに新しい研究への展開を計っていきたい。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 7件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (1件)
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