核酸分解酵素(RNaseH)依存型アンチセンス核酸(ASO)は、RNA を標的とする治療薬である。しかし、ミスマッチを含む二重鎖への作用であるオフターゲット効果をはじめとした安全性上の課題が汎用を妨げている。そこで核酸分解酵素と完全相補の二重鎖構造との相互作用を維持しつつ、非標準構造であるミスマッチを含む二重鎖との複合体形成を妨げることで、標的外mRNAとの二重鎖形成に伴うオフターゲット効果の抑制を目指し研究を進めた。複合体形成の制御に向けて着目したのが、非標準糖部構造への固定化によるひずみと、メチレンを系統的にリン酸骨格に導入するゆるみである。RNaseHの触媒部位とDNAおよびRNAの複合体のX線結晶構造を初期構造として、分子動力学計算により各種構造パラメータを評価したところ、複合体形成に伴って特徴的な糖部構造変化が引き起こされることが示唆された。その構造に固定化するべく、ビシクロ[3.2.0]ヘプタン骨格、ビシクロ[3.3.0]オクタン骨格および置換基を導入した誘導体の合成を行い、RNase Hによる切断産物から各種複合体形成効率を評価した。その結果、擬回転位相角として90°に固定することは、複合体形成制御に有効であることがわかった。その一方で、置換基を導入すると切断そのものが大幅に抑制されたことから、複合体形成における空間的なスペースはかなり限定的であることが示唆された。そこで固定化ではなく構造にゆるみを導入することで、複合体形成における重要な相互作用の解明とともに、複合体形成制御への応用を試みた。系統的にリン酸基前後へメチレンを挿入し評価したところ、複合体形成における糖部認識が最も重要な相互作用であることがわかった。これらの方法論を用いることで、ミスマッチ二重鎖への作用であるオフターゲット効果を回避し、安全性の高い核酸医薬品の開発への活用が期待される。
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