研究課題/領域番号 |
20H02863
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
田邉 一仁 青山学院大学, 理工学部, 教授 (40346086)
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研究分担者 |
西原 達哉 青山学院大学, 理工学部, 助教 (00773201)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | X線照射 / ジスルフィド結合 / 人工核酸 |
研究実績の概要 |
固形腫瘍内に発生する低酸素細胞はがんの悪性化の原因となることから、この病的細胞の診断法、治療法の確立は喫緊の課題である。本研究では、低酸素環境にある腫瘍細胞を標的とし、診断と薬剤の投与を同時に行うセラノスティクス(低酸素セラノスティクス)を実現する分子システムを確立する。具体的には、申請者がもつ技術(会合体形成によるトランスフェクション試薬不要な核酸の細胞・腫瘍組織内取り込み、低酸素環境でシグナル(MRI,発光)を発信する分子、人工核酸を活用した低酸素選択的な遺伝子発現抑制)を組み合わせ、低酸素細胞でシグナル発信しながら、核酸医薬機能を発する分子システムを開発する。2020年度はまず、X線の効果により核酸医薬となる無置換DNA鎖を放出し、遺伝子発現を抑制することが可能な分子システムの構築を試みた。ジスルフィド結合を介して、アルキル基を塩基部に導入した人工核酸を合成し、X線応答特性を調べた。その結果、低酸素環境で速やかにジスルフィド結合が開裂し、無置換DNA鎖が生成することを明らかにした。一方、低酸素環境下で強く発光する蛍光色素を新たに開発した。具体的には、低酸素環境で還元作用を示すCytochrome p450 reductase(CPR)に着目し、同酵素による還元によって強い蛍光発光を示す低酸素応答性分子プローブの開発を目指した。還元反応を受けやすい新たな官能基を見出し、発光色素に導入したところ、低酸素環境で選択的に分解し、発光を制御可能であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、X線照射によってDNA二重鎖形成を制御する分子システムを構築した。DNA鎖上塩基部にジスルフィド結合を介してアルキル基を導入し、相補鎖とのハイブリダイゼーションを阻害する一方、X線を照射し、ジスルフィド結合が開裂するとアルキル基が除去され、無置換のDNA鎖が生成する結果、二重鎖形成が再開されるシステムの構築である。 このシステムを実現すべく、まず、チミジン塩基の4位にジスルフィド結合を介してシクロヘキシル基を導入した核酸塩基担体(dSST)を合成した。チミジン塩基の水酸基をアセチル保護した後に、4位のカルボニル酸素を硫化した。続いて、保護基を除去した後に、シクロヘキシル基を導入し、dSSTを得た。得られたdSSTに低酸素条件下でX線を照射し、HPLCを用いて反応を追跡したところ、速やかにジスルフィド結合の還元、開裂が起こり、対応するチオチミジンが生成することが分かった。次に、DNA自動合成機を用いて、チオチミジン塩基をもつ3量体DNAオリゴマーを合成した後、チオチミジン塩基の4位にジスルフィド結合を介してシクロヘキシルを導入した。得られたDNAオリゴマーにX線を照射し、HPLCを用いて反応を追跡したところ、低酸素条件下で効率よくジスルフィド結合の開裂が生じ、無置換DNAオリゴマーが生成した。この結果は、人工核酸の二重鎖形成をX線を用いて制御し得ることを示している。一方、低酸素応答性分子プローブについては低酸素応答性官能基を導入した蛍光色素の合成に成功し、還元酵素との反応によって低酸素選択的な発光を示すことを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度に作成した分子システムについては、今後長鎖DNAおよびRNAの修飾を試み、X線照射下での反応を追跡すると共に、細胞内でのX線照射による遺伝子発現制御を試みる。また、人工核酸上に発光色素や19F原子などのシグナル発信部を導入し、低酸素セラノスティクスを実現する分子システムの構築を進める。具体的には、低酸素応答性発光分子ルテニウム錯体を導入した人工核酸、19F原子を塩基部に導入した人工核酸を想定している。一方、低酸素応答性分子プローブについては、人工核酸への導入を検討すると共に、細胞や動物組織への投与と機能評価を進めていく予定である。
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