固形腫瘍内には低酸素状態の細胞(低酸素細胞)が発生し、放射線治療に抵抗性を示すこと、またがんの悪性化の原因となることが知られる。今年度は、主に低酸素細胞で駆動する次世代治療薬となり得る以下の人工核酸分子について開発研究を進めた。 X線照射下の低酸素細胞で駆動する人工核酸の開発 当研究室ではこれまでに、低酸素条件下X線照射によってジスルフィド結合が還元・開裂することを報告してきた。この特長を利用し、本研究ではX線をトリガーとして二重鎖形成を制御可能な人工核酸を開発した。X線照射による二重鎖形成制御システムは以下のメカニズムによって構築される。①今回開発した人工DNA(Cy-ODN)には、ジスルフィド結合を介してアルキル基が導入されているため、相補鎖とのハイブリダイゼーションは抑制される。②X線照射により、ジスルフィド結合が開裂すると、通常のハイブリダイゼーション能が回復する。まず、合成したシクロヘキシル基修飾DNAオリゴマー (16量体:Cy-ODN16)を用いてX線応答性の評価を行った。DNAオリゴマーの水溶液に低酸素条件下でX線を照射すると、ジスルフィド結合が開裂し、無置換DNA(ODN16)が生成した。一方、有酸素条件下では反応効率が著しく低下したことから、本反応は低酸素環境で選択的に進行することがわかった。以上より低酸素細胞内においてX線照射による二重鎖形成の制御が可能であることがわかった。DNAの高次構造形成は、様々な細胞機能制御に用いることが可能である。本研究を通じて開発した人工核酸はX線照射下の低酸素細胞内で駆動し得ることから、治療薬としての活用が期待できる。
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