研究課題/領域番号 |
20H02873
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
坂口 和靖 北海道大学, 理学研究院, 教授 (00315053)
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研究分担者 |
鎌田 瑠泉 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (40750881)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 癌抑制タンパク質p53 / 多量体形成 / ゲノム編集 / ペプチド / 一過的阻害 |
研究実績の概要 |
ゲノム編集は、次世代の遺伝子治療法として大きな注目を集めている。しかしながら、CRISPR/Cas9においても、癌抑制タンパク質p53が変異・欠損している細胞に対して優先的にゲノム編集が起こり、治療後に細胞癌化の副作用の恐れがある。このため、有効な治療法が遺伝子治療のみである遺伝性疾患等の治療のために、より安全なゲノム編集法の開発が求められている。安全なゲノム編集のためには、細胞癌化の抑制機構経路の中心であるp53機能を『一過的』に停止制御することが必須である。本研究では、癌抑制タンパク質p53機能の時間的制御による新規ゲノム編集法の開発研究を実施する。すなわち、p53の機能発現に必須な四量体形成を介して、ゲノム編集するときのみp53活性を停止させ、効率的なゲノム編集を達成し、編集後にp53活性を回復させることにより細胞癌化を抑止可能な安全なゲノム編集法の開発を目指す。 初年度は、コイルドコイルペプチドによる機能性ペプチドの多量体化がその生理活性に及ぼす効果を制御することを見出した。今年度は、機能性ペプチドとして我々が発見した抗菌活性ペプチドr-Pep1を用い、その多量体化により大腸菌および哺乳細胞の増殖に対する効果を顕著に変化させることを見出した。さらに、一過的にp53の機能を阻害した際のゲノム編集効率を解析するため、ID-p53Tetペプチドの機能解析のためのp53活性およびゲノム編集効率を同時にモニターするレポーター系を確立した。 本研究における、多量体化を基盤とした新規機能性ペプチドの創成および癌抑制タンパク質p53のヘテロオリゴマー化を介した一過的機能阻害ペプチドID-p53Tetの開発により、安全かつ効率的なゲノム編集法の開発が強く期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、引き続きペプチド多量体化が機能性分子の生理活性に及ぼす効果を解析した。機能性ペプチドとして我々が見出した新規抗菌活性ペプチドr-Pep1を選択し、コイルドコイルのN末端部位に融合したペプチドをFmoc固相法により化学合成した。抗菌活性ペプチドr-Pep1のCC(Di)およびCC(Tri)による多量体化により大腸菌および哺乳細胞の増殖に対する生理活性が顕著に変化することを示した。 また、癌抑制タンパク質p53ヘテロオリゴマー形成を基盤とした一過的にp53の機能を阻害する新規ペプチドID-p53Tetの更なる改良を実施し、その機能解析のための系を確立した。デザインしたID-p53TetペプチドとCas9タンパク質を同時に細胞内に導入し、ゲノム編集効率を向上させるため、両者が特異的に結合するようにコイルドコイルフラグメントを融合させた新規ID-p53Tetおよび修飾Cas9をデザインし、それぞれの大腸菌発現用プラスミドをクローニングした。 さらに、ゲノム編集効率およびp53転写活性を同時に解析する蛍光レポーターアッセイ系を確立した。野生型p53を発現するA549細胞を用い、異なる2つのp53 Responsive element由来のp53の転写活性をCeruleanおよびVenus蛍光によりモニターし、さらにはmCherryをターゲットとしたgRNAを用いてCas9によるゲノム編集が起こると蛍光タンパク質mCherryの発現が失われるレポーター系を構築した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)2020年度・2021年度に引き続いて、各種機能ドメインをp53Tetまたは二量体・三量体コイルドコイルを用いて多量体化したペプチドをデザイン・合成し、これら多量体化ペプチドの機能を解析することで、機能性ペプチドの多量体化が生理活性に及ぼす効果を明らかとする。 (2)癌抑制タンパク質p53ヘテロオリゴマー形成を基盤とした一過的にp53の機能を停止する新規ペプチドID-p53Tetおよび確立したレポーター系を用いて、内因性p53機能の一過的阻害効果を解析する。さらに、ID-p53TetおよびCas9またはCjCas9とともに細胞に導入し、ゲノム編集効率を解析する。これにより、p53機能がゲノム編集効率に及ぼす効果を明らかとする。 (3)上記の結果をフィードバックし、p53機能の一過的制御によるゲノム編集効率の高いID-p53Tetの最適化を実施することにより、安全性の高いゲノム編集法の開発を目指す。
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