研究課題/領域番号 |
20H02876
|
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
長澤 和夫 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10247223)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | グアニン四重鎖 / ライトアップ型プローブ / G4リガンド / G4トポロジー |
研究実績の概要 |
グアニン残基を豊富に含む核酸の1本鎖配列では、核酸の高次構造の一つであるグアニン四重鎖 (G4) 構造が動的に形成されると考えられている。近年G4が形成されることで、DNAの複製、遺伝子の転写調節などの生命現象が直接的に制御する例が、多数報告されている(in vitro)。しかしG4は、生細胞内の「どこで」「いつ」形成されるのか、また複製や転写等の生命現象との直接的な関連は明らかにされていない。本研究では、生細胞内で動的に形成されるG4を可視化し観察するためのツールとして、ライトアップ型G4リガンドの創製を目的とした。特に、G4に特有な3つの各トポロジー(アンチパラレル、パラレル、ハイブリッド)を区別しながらG4の動的形成を可視化することを目的とした。 そこで、これまでに研究室で開発してきた、G4と特異的かつ強力に相互作用する大環状ヘキサオキサゾール型G4リガンドである6OTDにライトアップ機能を有する官能基を導入し、加えて側鎖構造に着目した構造展開を行うことで、トポロジー選択的なライトアップ型G4リガンドの創製を計画した。 その結果、6OTDのオキサゾールにビニルナフチル誘導体を導入することで、G4と相互作用時に蛍光特性が変化するライトアップ機能を付与することができた。また6OTDに側鎖を適切な位置に導入することでトポロジー選択的な相互作用能を示すことがわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
放線菌から単離された天然物テロメスタチン(TMS)は、グアニン四重鎖を強力に安定化する天然G4リガンドである。我々はこれまでにTMSをリードとし、大環状骨格中にヘキサオキサゾール構造を有する6OTD(Oxazoles Telomestatin Derivative)類を合成G4リガンドとして独自に開発してきた。6OTD類はTMSと同様、極めて強力かつ選択的にG4と結合する。NMRを用いた相互作用解析から、6OTD類はG4(モデル配列としてテロメアG4を使用)のG-カルテット平面とπ-π相互作用を介してスタッキングしていることを見出している。そこでこの相互作用様式をもとに、ライトアップ型G4リガンドの創製研究に取り組んできた。すなわち、G-カルテット平面と相互作用することで「分子のねじれ解消」を駆動力とするライトアップ型G4リガンドを設計することとした。 その結果、6OTD骨格中にビニルナフチル基を導入することで、G4と相互作用した時にのみ蛍光を示すライトアップ機能を6OTD型G4リガンドに付与することができた。またナフチル基に電子供与基を導入することで、ストークスシフトの大きいライトアップ型G4リガンドを創製することができた。加えて、ライトアップ型リガンドがG4と相互作用している系中に、当該G4形成配列の相補鎖を滴定すると、リガンド由来の蛍光が消失することを見出した。これは本リガンドを用いることで、生細胞中でのダイナミックなG4の形成と崩壊の観察の可能性を示唆する。さらにG4のG-カルテットとグルーブの両者を同時に認識するリガンド戦略によりG4のトポロジーへの選択性が向上することがわかった。
|
今後の研究の推進方策 |
6OTD骨格中にビニルナフチル基およびその誘導体を導入することで、G4と相互作用した時にのみ蛍光を発するライトアップ型G4リガンドを開発した。本リガンドは、G-カルテットと相互作用する部位での「分子のねじれ解消」を駆動力としている。また、G4のトポロジーを認識するG4リガンドを開発するために、G4構造中のG-カルテットとグルーブの両者を同時に認識することで、トポロジーへの選択性が向上する。 一方、当該リガンドのG4解消時(G4相補鎖滴定時)における蛍光の消失の応答が遅い、という課題が残る。これは本リガンドを用いて生細胞におけるG4の形成と解消を観察する上で、克服すべき課題である。ライトアップ機能の応答反応の遅い原因として、6OTD骨格がG4形成配列と、極めて強力に相互作用するためだと考えられる。そこで6OTD骨格のさらなる構造展開(例えば、環状構造から鎖状構造への構造展開)を行うことで、生細胞でのG4形成と解消を追跡できるリガンドを創製する。目的とする機能を有するリガンドを取得したのち、これを用いた生細胞でのG4形成検出を検討する。
|