本研究では、標的とする受容体サブタイプに対して、受容体本来の機能を損なうことなく、デザインした化合物による人為的な制御能を付与した新たなケモジェネティクス法を開発することを目的としている。 これまでの研究期間で、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)であるアデノシン受容体(A2A受容体)を標的として、ケモジェネティクス可能な変異体と人工リガンドペアを見出した。A2A受容体に関しては、サブタイプ選択性の高い臨床薬(承認薬)が知られる。そこで、本年度は、A2ARの細胞外ループを他のアデノシン受容体サブタイプのものとスワップした変異体を作成し、承認薬に対する影響を調べたところ、本来のアデノシン応答を損なうことなく、承認薬に対して応答しない変異体を見出すことに成功した。これらの研究成果は、論文としてまとめている。 さらに本年度は、他のclass A GPCRへの適用拡大として、ドーパミン受容体を標的とした。ドーパミン受容体は、DRD1からDRD5までの5種類のサブタイプが存在するが、DRD1とDRD5に関してはアミノ酸配列の相同性が高いために、それぞれを見分けられる選択的なアゴニストおよびアンタゴニストは知られていない。そこで、我々のケモジェネティクスを用いて、サブタイプ選択的に活性化させる方法へと発展させた。具体的には、DRD1に変異を加えて、依存のDRD1/DRD5に対するリガンドに対する親和性を変化させるというものである。2021年にDRD1の構造解析が報告されたので、その構造情報に基づき、変異体とリガンドペアを探索した。蛍光顕微鏡を用いた蛍光性Ca2+イメージングにより人工リガンドの作用を評価した結果、DRD1とDRD5を区別することが可能な、変異体およびリガンドペアを見出すことに成功した。
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